「たかだか、人間の容器、それもほんの一部分にすぎない顔の皮膚くらいに‥‥」。顔いちめんにケロイドの損傷を負った主人公は、「他人の眼」の中で「顔のもつ不合理な役割」に呻吟する。やがて、ある方法で世間への挑戦を試みるのだが ― 。情景と観念の濃やかな表現。自らが自らを救済できる可能性の示唆。やっかいな問題に正面から立ち向かう文学者としての姿勢と創作者としての卓抜した伎倆に感服させられる。