“天命を知る”の意味は深い。「天が自分の仕事に対して、崇高なる使命を与え給うたという自覚」を持つ、だけではない。使命を感じいかに努力しようとも、ことの成否は別問題である、という摂理を知ることを含む。死生、富貴、成敗など、あらゆる吉凶禍福の到来も、「人力の如何とも為し難い問題」であり、天の裁きに任せる他はない。これも天命なのだ。“醒めた思想家”をわかりやすく小説化した、作者晩年の力作。