「理不尽な世の仕組み」に挫けることなく、逆境を乗り越えて凛々しく生きていく牧文四郎。不遇をかこつことなく身を慎み、技を磨いて精進していれば、いつかは時代がその能力にふさわしい役回りを準備してくれる。生活で重宝している清澄な小川。「内心ひそかに天からもらった恩恵なるものを気に入っている」という自然への畏敬も、主人公の思考のベースになっている。筋立て、伏線、情景描写といい、完成度の高い時代小説。