平成5年の夏は冷夏。平成6年の夏は猛暑。その狂った年から狂った年への2年余、主人公は、病いに翻弄されながら生きていた。宣告されたのは、下咽頭癌。手術により声を失う。と、聞こえてきたのは『歎異鈔』の中の「地獄は一定すみかぞかし」という声。煩悩具足の凡夫であるわが身と、布教家、暁烏敏(あけがらすはや)の生涯を重ね合わせる。「剃刀の刃を伝うような危うくきわどい教え」の現代的意味を問う。