某大学の庶務課の課長補佐は、徴兵忌避者としての過去をもつ。はじめはラジオや時計の修理、次は砂絵屋という露天商として、日本中を逃走しつづけた。戦後の現在と戦時中の過去が、行をあけることもなく交互に登場するという、異色の小説形式。逃亡が成功するとわかっていながら結末までスリリングなのは、たとえば香具師の符牒(隠語)など、細部のリアリティーが保証されているためか。読み応えのある名著。