――石綿による疾病を労災認定させる
この10月31日、約3年前に「悪性胸膜中皮腫」という診断名で、亡くなった人の妻が請求した労災遺族補償年金(代理人 大西 誠)が、山口労働基準監督署により認められました。
被災者は、建築物の補修および解体等の石綿(アスベスト)にさらされる作業に30年以上従事。4月に請求を起こしてから、半年が経過し、ようやく支給決定にまでこぎつけました。
当初は、スンナリ認定されると思っていたところ、とんでもないことが‥‥。死亡診断書を書いた病院の医師の上司が、労働基準監督署の照会に対し、診断名は誤りであったと回答。たんなる癌であったというのです。
そのような“禁断の一手”を認めてはいけないと当方が主張。事態は紛糾し、監督署との間に不穏な空気がただよいました。
平成17年夏に、石綿ばく露による多数の死者や患者の存在が表面化。中皮腫のほとんどが石綿に起因するものと考えられて、今年の2月、「石綿救済新法」が制定され、労災も石綿の認定基準が通達により更に緩和されました。「中皮腫」の診断の重みが3年前と全く違ってきたのです。だからといって、その前提となる事実を覆すというようなアン・フェアーな行為を安易に認めてはいけないのです。書証には、文字によってその内容が動かすことのできない形で確定されています。ましてや、診断書は、カルテに基づいて作成されるもの。“ナンデモアリ”の今の世の中と一緒にされてはたまりません。
一時は、請求者ともども、不支給決定、不服申立手続である審査請求、再審査請求を覚悟していただけに、安堵の胸をなでおろしています。尽力していただいた労働基準監督署の職員の皆様に深く感謝いたします。
ちなみに、「医師の作成した診断書には、正規の鑑定人の作成した書面に関する刑訴法第321条第4項が準用されるものと解する」というのが判例の考え方(最判昭32.7.25)。医師の診断書の実質は鑑定書であり、医師のみが作成できる専門的で証明力の高い文書なのです。
「石綿(アスベスト)の労災認定の仕組み」(2006/7/7)
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