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労働実務Q&Aこれで解決!

石綿(アスベスト)の労災認定の仕組み

Q.

私の夫は、かつて建設会社に30年以上勤務し、在職中は建築工事や解体等の作業に従事していました。定年(60歳)で退職後、3年前に67歳で死亡。死亡診断書の死因欄には「胸膜中皮腫」と記してありました。そこで、今マスコミで騒がれている石綿が原因で発症したのではないかと疑念を抱いている次第です。労災保険制度による補償請求ができますか。

A.

労災給付を受ける権利は、退職しても影響を受けませんし、5年の時効にもかかっていません。石綿特有のがんの一種である中皮腫はわが国では増加傾向にあり、石綿との因果関係が強く指摘されています。中皮腫の認定要件も、今年の2月に緩和されたばかり。遺族補償給付と葬祭料の請求が可能と思われますので、最寄りの労働基準監督署にご相談ください。


◆石綿による疾病の労災認定基準

  業務上疾病の範囲については、労基法施行規則別表第1の2及びこれに基づく告示に定められています(労基法75条2項、施行規則35条)。「疾病」の場合には「負傷」と異なり、業務により生じたものであるかどうかの判断が容易ではないからです。
  ただし、弾力的に対処できるよう法文は簡略な表現に止め、医学的知見の進展に対応して、発症条件等を行政通達の形で補足、明示しています。これが「認定基準」です。疾病の業務起因性を肯定し得る要素を集約したものといわれています。認定基準は公表されており、これにより斉一行政の確保および請求人の立証責任の軽減が図られることになります。
  さて、法文である別表第1の2第7号7には、「石綿にさらされる業務による肺がん又は中皮腫」が業務上疾病として明確に規定されています。
  次に、石綿による疾病の認定基準をみてみましょう。認定基準には、石綿にばく露する恐れのある作業として、「石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修又は解体作業」を例示しています。ポイントは業務上外の認定基準。中皮腫が石綿による業務上疾病であると認定されるためには、次のいずれかの要件を満たす必要があります。
  ①じん肺で定める胸部エックス線写真の像が第1型以上である石綿肺の所見が得られていること。
  ②石綿ばく露作業に従事していた期間が1年以上あること。
  後者の石綿ばく露作業の従事期間は、3年前に「5年以上」から「1年以上」に短縮(平成15年9月19日基発第0919001号)。今年に入ってから、さらに附随要件(2つの医学的所見)が削除されました(平成18年2月9日基発第0209001号)。中皮腫と診断されれば、そのほとんどが石綿に起因するものと考えられるようになったのです。
  お尋ねの事案では、既に中皮腫という診断が確定しています。したがって、石綿ばく露作業へ1年以上従事していたことさえ証明できれば、中皮腫が業務上疾病であると認定されることになるのです。


◆「石綿救済新法」による救済

  「石綿による健康被害の救済に関する法律」が、平成18年3月27日より施行。この法律は、労災時効の場合と、労災対象外の場合の2つのケースについて、迅速な救済をめざして制定されました。
  1つは、被災労働者の死後5年が過ぎ、労災保険法の規定による遺族補償給付を受ける権利が時効によって消滅した遺族を対象とするもの。手続は労働基準監督署において。
 もう1つは、工場周辺の住民など、労災保険による救済の対象とならない方で、中皮腫や肺がんなどの指定疾病にかかった旨の認定を受けた方やその遺族に対するもの。手続は独立行政法人環境再生保全機構を通じて。
石綿による疾病を労災認定させる(2006/11/7)

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