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労働実務Q&Aこれで解決!

解雇権濫用法理

Q.

 「解雇規制」をめくる議論について。まず、民法上、解雇は自由にできるのが原則です(627条)。労基法にも19条と20条以外の制限はありません。しかし、解雇は労働者生活にとって最大の脅威。そこで、学説にも様々な説が‥‥。解雇は自由にできるとする解雇自由説。正当な事由がある場合に限られるとする正当事由説。相当の事由がない限り解雇権の濫用となる権利濫用説など。ただし、40年以上前のお話。解雇権濫用法理が法文化されるまでの経緯を教えて下さい。

A.

 昭和40年代には、正当な理由のない解雇は権利の濫用(民法1条3項)として無効となるという下級審の裁判例が定着していました。最高裁はこれを受けて、日本食塩製造事件において、解雇権濫用法理を判例法理として確立(最判昭50・4・25)。この法理は2003(平成15)年労基法改正により、労基法18条の2として法律上明文化。2007(平成19)年の労働契約法の制定に伴い、本来収納されるべき労契法16条に移設されました。今日、解雇が自由であるという民法の原則は、あまり意味をもっていません。


◆解雇権濫用法理の外形と内実

 労契法16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。判例法理として形成された解雇権濫用法理をそのまま明文化したものです。国民への認識可能性が高まり、法的効力も強化されました。
 もともとの権利濫用の法理は、民法の一般条項(1条3項)の一つ。およそ契約に適用される大原則です。つまり、権利というのは自由に行使してもいいけれども、濫用してはいけないという歯止めがある、という趣旨です。原則と例外が明確です。
 しかし、権利濫用の法理を媒介にして形成された解雇権濫用法理は、通常の権利濫用の法理とは異なります。すなわち、解雇については、合理的理由と社会的相当性が要求されるため、実際上は解雇には正当な事由を要するという考え方と大差がないのです。つまり、権利の濫用の法理の原則と例外を実質的に逆転させた内容の理論なのです。
 しかも、実際の裁判では、使用者側が主張立証責任を負わされます。通常の権利濫用の法理では、権利濫用にあたる特段の事情の立証責任はそれを主張する当事者にあるとするのが一般。しかし、解雇理由についての情報や資料は通常使用者が有していることが多いこと等が斟酌され、実質的に拳証責任が転換されているのです。


◆客観的合理性と社会的相当性

 労契法16条の文言によると、解雇は、第1に、客観的に合理的な理由を欠き、第2に、社会通念上相当であると認められない場合には、権利の濫用として無効となるとされています。解雇には、客観的合理性と社会的相当性の2つの要件が課されているのです。
 客観的合理性の要件の判断基準は何でしょうか。勤務成績、勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いていることを理由に解雇する場合、裁判所は、次のような事情を総合的に判断しています。①企業の種類・規模、②職務内容、③労働者の採用理由、④勤務成績・勤務態度の不良の程度、⑤その回数、⑥改善の余地の有無、⑦会社の指導状況、⑧他の労働者との均衡等。
 また、規律違反行為があるかどうかを判断する際には、①規律違反行為の態様、②その程度、③その回数、④改善の余地の有無等を総合的に検討しています。
 労働者側に原因のある解雇でありながら、解雇理由該当性を抑制的に判断していることが見て取れます。
 客観的に合理的な理由が認められる場合であっても、さらに社会的相当性が必要です。裁判所は相当性の要件についても厳格に判断しており、労働者側に有利な諸事情を考慮したり、解雇以外の手段による対処を求めることが多くなっています(高知放送事件 最判昭52・1・31)。

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