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労働実務Q&Aこれで解決!

就業規則の法規範性と限界

Q.

 労働紛争を、解決するためのインフラが飛躍的に充実してきました。わけても労働者には、労働基準監督署、労働局、労働審判あるいはユニオンなど、労働者が困ったときに駆け込める機関が揃っています。最近の労働者の権利意識も高まってきたような感じが‥‥。経営者サイドの相談先は限られており、最後の砦は就業規則くらいでしょうか。人事労務のリスクやトラブルを回避し、経営者や会社に有利になるような就業規則を作ることは可能ですか。

A.

 労使のトラブルが起こったときの最終的な決着場所は裁判所です。就業規則の有効性や「合理性」の判断も裁判官に委ねられています。裁判官は、就業規則に対して、わりとシビアで覚めた見方をしています。就業規則は会社が一方的に作ったものであり、国の「法律」と違い、選挙や三権分立などの民主制の担保も何もないからです。今日の労働法制や判例法理は圧倒的に労働者に有利に出来上がっています。できることと、できないことを知ることも賢明なスタンスです。


◆有用性が肯定される領域

 就業規則に規定がないとできないことがあり、3つのカテゴリーに分けられます。
 その1は、労働法に規制がない項目。判例は別として、法的ルールの介入がないか、法律が沈黙している分野です。
 代表的なものが、休職。傷病休職など、要件、効果についての定めがないと休職命令を発することはできません。振替休日も同じ。
 配置転換や転勤などの人事異動は、日本ではよく行われます。しかし、就業規則や雇用契約書に記載がないと、本人の同意なく、異動命令(辞令)を出すことは不可となります。
 その2は、法的規制が緩やかな事項。
採用の自由、試用期間、期間雇用など。厳格な解雇規制がある反動あるいはスキマなのでしようか。会社側の裁量が認められています。
 賃金の決定方法(賃金格差の基準)、昇給や賞与なども制限がなく、広く経営者の考え方を表明できます。
 その3は、就業規則や雇用契約書において個別の根拠規定が必要な命令や処分。
 時間外・休日労働は、36協定があるだけではダメで、使用者が残業を命ずるためには、就業規則等に労働契約上の根拠が必要です。
 制裁の一種である懲戒処分。その事由と手段を就業規則に明定するなどの特別の根拠がないと、懲戒処分を行うことはできません。


◆有用性が否定される領域

 就業規則に定めることができないことや、たとえ定めがあったとしても制限を加えられることがあります。
 第1に、就業規則は、労働基準法などの法令や労働協約に反することができません(労基法92条、労契法13条)。公序良俗に反することも同様です(民法90条)。周知のように、わが国の労働時間規制や解雇規制はとても厳しいもの。これらの項目について、就業規則を変えることによって会社に有利になることはあり得ないのです。就業規則に法律と異なることを定めて労働者保護を緩めることなど法的に不可能です。
 第2は、たとえ規定されたとしても無意味な項目。その典型が「管理監督者」(労基法41条)の該当性の問題。時間外手当や休日労働手当を支払う必要のない管理監督者に該当するかどうかは、名称ではなく実態に基づいて判断されます。就業規則に「当社の管理職は、課長以上の役職者をいい、労基法41条と同義語である」と規定しても無効です。
 第3に、裁判所は、就業規則を否定したり、制限を加えることがあります。たとえば、退職金規程(就業規則)に「懲戒解雇をした場合は、退職金を不支給または減額する」という規定。多くの裁判例は、永年勤続の功を抹消ないしは減殺するほどの不信行為があった場合に限られるとして「限定解釈」を行っています。退職金を支給しないことが許されない場合があるのです。

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