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労働実務Q&Aこれで解決!

労働基準監督官の職務権限

Q.

 2度目の過労自殺が明らかになった広告大手の電通。新聞報道等によると、昨年(2016年)10月14日に、東京労働局が抜き打ちで本社等に立ち入り調査を実施。11月7日には、本社と関西支社など3社に、労働基準監督官ら総勢88人による強制捜査が行われたとのこと。捜査を担うのは、一昨年発足した過重労働撲滅特別対策班(通称「かとく」)。今回の強制捜査は、スピード、規模ともに、「異例中の異例」だとか。労働基準監督官は、捜査権限ももっているのですね。

A.

 労働基準監督官の職務権限には、まず行政職員としての職務権限があります。予告なしに事業場に赴き、労働基準法や労働安全衛生法等の法違反の有無を調査できます。これを「臨検」といい、これがメインの業務なのです。監督官の行政指導に従わず繰り返し法違反を犯したり、死亡労働災害を発生させた場合等には、特別司法警察職員の職務遂行に切り替えられます。警察官と同じように、捜査、押収、逮捕等の強力な「捜査」権限が与えられているのです。


◆行政職員としての職務権限

 労働基準監督官は、「事業場、寄宿舎その他の付属建設物に臨検し、帳簿および書類の提出を求め、または使用者もしくは労働者に対して尋問を行う」ことができます(労基法101条1項)。つまり、監督官に認められている主な行政上の権限は、①事業場に臨検し、②帳簿および書類の提出を求め、③使用者または労働者に対して尋問を行うこと、です。
 「臨検」とは、労基法違反の有無を調査する目的で事業場に立ち入ることをいいます。行政上の権限であり、犯罪捜査のための捜索とは区別されます。
 「帳簿および書類」とは、労基法107条から109条までに規定する労働者名簿、賃金台帳、その他労働関係に関する重要な書類(出勤簿、就業規則、36協定など)をいいます。
 「尋問」とは、ある事項について質問し、それに対して回答を求める行政処分の一種であり、刑事訴訟法上の尋問(犯罪捜査のための調書の作成)とは区別されます。
 監督官の「臨検を拒み、妨げ、もしくは忌避し、その尋問に対して陳述をせず、もしくは虚偽の陳述をし、帳簿書類の提出をせず、または虚偽の記載をした帳簿書類の提出をした者」は、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条4号)。行政上の権限とはいえ、罰則の適用を通じた間接的な強制力を法的手段として与えていることは、注目に値する事項です。


◆特別司法警察職員としての職務権限

 労働基準監督官は、事業主等が労働基準関係法令に違反した場合、「刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行」います(労基法102条)。監督官は、行政上の権限とともに、特別司法警察職員としての職務を行うことができるのです。
 特別司法警察職員とは、一般司法警察職員である警察官以外の者をいい、特に法律によって司法警察職員として職務を行うように定められた者をいいます。労働基準関係法令の違反事件については、その内容が複雑でその捜査に当たって専門的な知識と経験を必要とするので、労基法により労働基準監督官に特別司法警察職員としての職務を行わせるようにしたのです。
 ここでいう捜査とは、犯罪の嫌疑がある場合に、公訴(検察官が裁判所に刑事裁判を求める申立て)を提起し遂行するために、犯人を発見・保全し、証拠を収集保全することをいいます。捜査の主体は、第一次的に司法警察職員であり、補充的に検察官、検察事務官が行います。
 捜査の方法には、強制力を用いない任意捜査と強制力を用いる強制捜査があります。「強制捜査」とは、逮捕・勾留によって被疑者の身柄を拘束して取調べをしたり、物的証拠について被疑者や関係人を強制的に捜索して押収することです。もちろん、刑事訴訟法の定めるところにより裁判官の発する令状を必要とします。捜査が完了し、悪質な事案は送検されます。

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