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労働実務Q&Aこれで解決!

『同一労働同一賃金』論

Q.

 政府は、働き方改革の実現を目的とする実行計画の策定のため、安倍首相を議長とした働き方改革実現会議を平成28年9月から開催。同会議は、12月20日、同一労働同一賃金ガイドライン案を公表しました。それによると、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理で、いかなる待遇差は不合理なものでないかが示されています。そもそも、同一労働同一賃金とはどういう考え方をいうのでしょうか。

A.

 同一労働に対しては同額の賃金を支払われるべきという考え方です。通常は、同一価値労働同一賃金と呼ばれています。しかし、この点に関しては専門家の間でも様々な意見があり、いわば百家争鳴状態。労働の価値を客観的に評価判定すること自体極めて困難なことだからです。大事なことは、わが国の雇用と賃金に関する雇用慣行の実態と、これを支える実定法や判例。定義を明確にしないまま、センセーショナルな言葉だけが一人歩きしている現状に違和感を抱かざるを得ません。


◆正規・非正規労働者の賃金格差

 正規労働者と非正規労働者の賃金格差をめぐっては、民法の一般条項である公序良俗違反(90条)となるかどうかが争点です。同一価値労働同一賃金に公序性が肯定されれば、賃金格差全体が差別的取扱いとして損害賠償請求(民法709条)の対象となります。
 まず、憲法14条、労基法3条・4条の根底にある「同一(価値)労働同一賃金原則」により公序が設定されており、合理的理由のない著しい差別は公序に違反するという見解があります。
 政府も、「EU諸国の例に倣い」、正規と非正規という雇用形態間の賃金格差を是正することを目的として「同一労働同一賃金」の概念を議論しています。
 これに対し、同一価値労働同一賃金の原則が実定法上根拠のある原則とは言いがたいとして、公序性を否定する見解もあります。雇用形態の違いによる賃金格差は、基本的に労働市場の取引(私的自治の原則)に委ねられていると考えるのです。私もこの見解に賛成です。
 日本では労働者の職務遂行能力を中心とする基準で処遇を決定する職能給が採用されており、職務ごとに賃金が決定される職務給が一般的となっているEU諸国とは雇用慣行がまったく異なります。
 また、EU諸国における同一労働同一賃金論は、本来、性別・人種など個人の意思や努力では変えることができない属性を理由とする原則。正社員や契約社員、パートタイマーといった雇用形態は、当事者の合意によって決定されるもの。前者が人権論であるのに対し、後者は立法政策の分野。適用される法領域が異なっているのです。
 過去の非正規労働者の待遇格差をめぐって争われた裁判例においても、同一価値労働同一賃金の原則を全面的に認めたものはありません(丸子警報器事件 長野地上田支判平8・3・15、日本郵便逓送事件 大阪地判平14・5・22)。


◆同一労働同一賃金ガイドライン案

 ガイドライン案は、有期・パートにかかる基本給(昇給)、手当(賞与、役職手当、時間外労働手当等)、福利厚生(施設、慶弔休暇等)、教育訓練等の待遇全般について基本的考え方を示しています。
 厚労省に設置された検討会では、平成29年3月15日、従前から重ねてきた議論・検討を踏まえ、不合理な待遇差について規定された労働契約法20条、パートタイム労働法8条、均衡を配慮した待遇の確保について規定された派遣法30条の3の改正等の法整備に関する論点整理を内容とする報告書が提出されました。
 今後は国会審議を経て、最終確定します。改正法の概要が定まった時点で、社内に不合理な待遇差が生じていないか確認し、対応策を考えていけばよいでしょう。

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