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労働実務Q&Aこれで解決!

企業の収益性と雇用

Q.

 しがない中小企業の経営者です。日本の社会は、企業の利益追求に対して、慨して否定的な反応を示すことが多いようです。とりわけ知識人や文化人と称する人たちは、利益をあげること自体にうさんくささを感じています。経営者は、自らの富を増やすために、従業員を安い給料でこき使っている、という人さえいます。日頃から従業員に対し、「高収益であるべき」と叱咤激励していますが、今一度、利益追求に確信をもてるヒントを下さい。

A.

 私も若い頃は、会社の経営者は、労働者が生み出した剰余価値を搾取する人である、と考えていました。しかし今の仕事に就き、多くの経営者とつきあううちにその考え方は一変。会社で一番よく働くのは社長。一番よく勉強するのも社長。人間性を陶冶しているもの社長。尊敬できる人も少なくありません。経営者は会社経営に尽力することにより、将来にわたって経営を安定させる責任があります。そして従業員の雇用を守るため、会社は高収益であらねばならないのです。


◆企業はなぜ利益が必要か

 企業はなぜ利益が必要なのでしょうか。
 第1は、将来の危険への対応。経営環境は激変します。過渡期における収益悪化を支えるのは何といっても利益留保(利益の積み立て)。銀行は当てになりません。高収益により自己資本を増やし財務体質を強化し、無借金経営をめざすのが会社経営の王道です。
 第2は、将来の発展への資金の供給。環境変化に素早く対応し、創造と革新により社会へ貢献することが企業の役割です。研究開発投資や設備投資を行って、事業展開の選択肢を広げる努力を不断に行う必要があるのです。
 第3は、従業員、株主、社会に対する責任。従業員に対しては、賃上げなどの労働条件を向上させ、従業員の生活を豊かにし、ハッピーにしていく責任があります。株主には高配当で報いる。さらには法人税を支払って税収面で社会への責任を果たしていく義務があるのです。


◆雇用と利益の再吟味

 昔、「サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ」という歌がありました。異論があるかもしれませんが、従業員に求められるのは、主としてルーチン・ワーク。
 これに対して、経営者は誰もがなれるものではありません。従業員とは異なる才覚、資質、器量および無限大の責任感が必須です。従業員という集団を幸福に導くために、自己犠牲もいとわず、率先垂範して働き、経営の舵取りを担わなければならないのです。人を雇用するということは、現在はもちろん将来にわたって、従業員やその家族の生活を保障していくことです。経営者の私利私欲を越えた公的扶養義務。これこそ仏教用語でいう「利他行」です。
 利益にも再定義が必要です。一般に、利益は儲けともいいます。しかし、企業の利益は、企業の存続責任を果たすためのコスト(維持費、将来のリスクに備える蓄え)に外なりません。P・F・ドラッカーは、企業に「利益など存在しない。……存在するのはコストだけである」と喝破しました。利益がなければ雇用した人たちの健康の維持も生活の保障もできないのです。

◆利益獲得の指標と方法

 京セラ、第二電電(現KDDI)の創業者である稲盛和夫氏は、「どんな企業であれ、売上高経常利益率(経常利益÷売上高×100)10%以上をめざすべき」とキッパリ。また経営とは非常にシンプルなもので、その基本は「いかに売上高を大きくし、いかにして使う経費を小さくするか」に尽きるとしています。財務管理の専門家が説く利益先取方式の公式(「売上高-目標利益=許容費用」)を凌賀し、利益の極大化をめざす点が凄いところです。
 そして、何より経営者自身が高収益にしたいという心からの強い願望を持ち、立てた目標を全従業員で共有していくことが、高収益企業をつくる出発点です。経営者のみなさん、誇りと矜持を。

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