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労働実務Q&Aこれで解決!

ノーワーク・ノーペイの原則

Q.

 当社は、ここ数年で、従業員5人規模から約20人規模に業容を拡大してきました。ある従業員がうつ病になり、病欠の日について社会保険の傷病手当金の請求をしたい旨を言ってきました。傷病手当金は欠勤日に給与の支払いがないことが要件。当社は月給制であり、就業規則にも明記してありますが、日割計算の規定がありません。欠勤日について賃金カットを行っても問題はないでしようか。

A.

 月給制のうち、欠勤、遅刻、早退等があっても賃金カット(減額)されないものを完全月給制といい、賃金カットを行うものを日給月給制といいます。欠勤等があっても月給をカットしないという定めがあれば、完全月給制を採用していることは明白。本件のように月給制をとりつつ、賃金カットの定めをしていないケースがどうなるか。結論から言うと、賃金カットをしても労基法に違反しません。労務提供がない時間について労働者に賃金債権は発生せず、ノーワーク・ノーペイの原則が適用されるからです。


◆ノーワーク・ノーペイの原則

 ノーワーク・ノーペイの原則とは、文字どおり「労働なくして賃金なし」という原則です。労働契約は、労働に従事することとその報酬たる賃金が対価関係にあります(労働契約法6条、民法623条)。つまり、労働契約は提供した労務の対価として賃金を支払うという約束。したがって、欠勤、遅刻、早退というような労働者の労務の提供がない時間について、会社は賃金を支払う義務はないのです。そもそも、欠勤等により「債務の本旨に従った」(民法493条)労務の提供がされなかった場合、その対価としての賃金は発生しないのが私法上の原則です。
 しかも、労働者の賃金請求権は、その約した労働を終わった後でなければ請求できません(民法624条1項)。民法上、賃金は労働と同時履行の関係にはなく、後払いとされています。
 もっとも、ノーワーク・ノーペイの原則は任意規定であり、労使の特約によりこれを排除することは可能です。完全月給制は、こうした特約の一種です。


◆完全月給制と日給月給制

 1ヵ月いくらと月単位で賃金を決めるものを月給制といいます。日給制や時間給制と同じく、賃金支払形態の一つです。このうち、欠勤、遅刻、早退等があっても賃金カットされないものを完全月給制、賃金カットを行うものを日給月給制といいます。
 中小企業では日給月給制を採用しているところが多いと思われます。ノーワーク・ノーペイの原則は、従業員間では公平感を維持でき、日給月給制は、財源にゆとりのない中小企業に適しています。
 ただし、完全月給制、日給月給制のいずれも法律上の用語ではありません。要は、就業規則等に、欠勤等をした場合に賃金額を控除することと、その条件が定まっているかどうかによって決まります。
 すでに述べたように、本事案はノーワーク・ノーペイの原則により、賃金カットを行っても違法とはなりません。しかし、不就労時間に応じて賃金カットを行う場合は、就業規則や賃金規程にあらかじめその算定方法(分母となる「所定労働日数」や分子となる「基本給」及び「諸手当」の意義について)を明記しておくのがフェアーです。


◆ストライキによる不就労と賃金カット

 ストライキによる不就労の場合には、労務の給付が労働者の意思によってなされないわけですから、ノーワーク・ノーペイの原則により不就労分の賃金控除ができます。間題は、賃金カットの範囲です。最高裁は、「労働協約等の定め又は労働慣行の主旨に照らし個別的に判断するのを相当」として、家族手当もストライキによる賃金カットの対象となると判示しました(三菱重工業事件 最判昭56.9.18)。

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