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労働実務Q&Aこれで解決!

正規・非正規労働者の賃金格差

Q.

 働き方改革関連法が本年6月29日に成立。なかでも正規・非正規労働者の不合理な待遇格差を禁じる「日本版同一労働同一賃金」は、労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備。企業には、負担増と賃金制度改革を追る重要案件です。大企業は2020年4月から、中小企業は、2021年4月から施行となっています。ところで、法成立に先立って注目される最高裁判決が出されたと聞きました。最高裁判決は改正法の施行に影響を及ぼしますか。

A.

 正規労働者と非正規労働者の待遇の差が、労働契約法が禁じる「不合理な格差」に当たるかが争われたハマキョウレックス訴訟と長澤運輸訴訟の最高裁判決(最判平30・6・1)ですね。定年前の契約社員が格差解消を求めたハマキョウレックス訴訟では、皆勤手当など5種類の手当の格差が不合理・違法、と判断されました。定年後再雇用の嘱託社員が訴えた長澤運輸訴訟では、大半の請求が棄却されたものの、精勤(皆勤)手当の支払いが不合理と認定されました。


◆賃金項目ことの個別判断

 ハマキョウレックス事件最高裁判決は、労契法20条の一般解釈を明らかにしたうえで、各手当について改めて個別の検討を行いました。正社員に支給、契約社員には不支給となっている賃金項目は、住宅手当、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当の6手当。それぞれの判断と根拠は以下のとおり。
①住宅手当 唯一合法と認定。正社員には転勤を伴う配置転換があることから、経済的負担を踏まえて正社員のみ支払う事が不合理な格差には当たらないとした。
②無事故手当 違法。安全運転及び事故防止の必要性については、職務の内容が異ならないから、正社員・契約社員間で差異はない。
③作業手当 違法。契約社員と正社員の職務の内容は異ならず、行った作業に対する金銭的評価が異なることになるものではない。
④給食手当 違法。食事を補助する趣旨からすると、契約社員であれ正社員であれ勤務時間中に食事をとる労働者に支給すべき。
⑤皆勤手当 違法。皆勤を奨励し、出勤する者を確保することの必要性については職務の内容によって差異が生ずるものではない。
⑥通勤手当 違法。通勤に要する交通費を補填する趣旨であるところ、労働契約に期間の定めがあるか否かによって、通勤に要する費用が異なるものではない。
 一方、長澤運輸事件最高裁判決は、現役世代の正社員と定年後再雇用の嘱託社員の賃金格差について、年金受給が予定され、年金が支給されまるまでの間は会社から調整給を受け取っていることなどを理由に、定年前と同じ仕事をしていても賃金格差の大半を適法と認めました。原審が全体的考察を行ったのに対し、賃金項目の趣旨を個別に判断。そのうえで、精勤手当について、職務内容が同一である以上、精勤を奨励する趣旨は正社員と嘱託社員とで違いはないとして、不合理と認定しました。


◆非正規労働者の賃金見直しを追る

 「日本版同一労働同一賃金」法制の施行はまだ先。賃金制度の見直しはそれまでに、のハズでした。しかし、ハマキョウレックス事件の最高裁判決は、政府が示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」(2016年12月公表)に沿った内容。改正法を先取りしています。
 企業は、諸手当の見直しが待った無しの状況に。なぜなら、判例の拘束力は事実上大きく、同種の事案が訴訟になれば同様の司法判断が下される可能性が高いからです。最高裁が具体的に判断を示した手当については、自社の現状を確認し、賃金格差の早急な見直しが必要です。
 今後はさらに、基本給、昇給、賞与の均等待遇の実現も必須の状況。訴訟リスクに備えましょう。
 資金力が限られている中小企業にとって、非正規労働者の待遇改善は容易なことではありません。ましてや、雇用を確保するために人件費は高騰。人手不足倒産の増加も必至。しかし、生き残りを懸けた戦いに負けるわけにはいかないのです。

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