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労働実務Q&Aこれで解決!

民法と労働法

Q.

 このたび、会社の人事労務担当の職務に就くことになりました。大変素朴な質問をさせていただきます。労働法は、契約の自由の原則に対して修正を加えているといわれますが、そもそも契約の自由の原則は、どの法律のどこに書かれているものでしょうか。また、人事労務の問題の根底にあるものは使用者と労働者の間の権利義務関係であり、その権利義務関係を規律する基礎法が民法ですよね。民法と労働法はどのような関係にありますか。

A.

 近代市民法の大原則である契約の自由は、現行民法制定の際に、書くまでもない当然のこととして表立って条文化されなかったようです。ただし、民法は過失責任の原則(709条、415条)を定めています。これは故意・過失のないかぎり自由な活動を許容するものであり、契約の自由を裏面から保障するものといっていいでしょう。民法と労働法は、一般法と特別法の関係にあります。法の効力の及ぶ範囲が一般的か特殊的であるかによる区分です。


◆労働法と市民法原理の修正

 私法または市民法の中核にあるのが民法。民法は、資本主義経済の基礎法として、商品の等価交換を法的に保障するという基本的性格をもっています。そこで、商品交換の等価性を保障する原理が民法の基本原理であり、私法の3原則ともいわれています。
 第1は、人格の自由。人格の自由とは、商品所有者としての人格の自由。商品交換の主体の面から等価交換を保障します。民法には、権利能力の平等の原則(1条の3)という形で間接的に規定されています。
 第2は、所有権の自由。所有権の自由とは、商品所有権の自由。商品交換の客体について等価交換を保障するもの。所有権の自由は、憲法の財産権の保障(29条)および所有権絶対の原則(206条)に現われています。
 第3が、契約の自由。契約の自由とは、商品交換の自由。商品交換の媒介手段の面から等価交換を保障。契約の自由の直接的な規定はありませんが、憲法29条の財産権の保障の中に論理的に含まれています。なお、過失責任の原則は、故意または過失がある場合にのみ損害賠償責任を負うという原則(709条、415条)。つまり故意・過失がない限り、人の自由な活動を許すことですから、契約の自由を通じての自由競争を裏面から保障しているのです。私的自治の原則ともいわれています。
 これに対し労働法は、労使の力関係が不均衡であることを考慮して、憲法25条の生存権の理念にもとづき契約の自由の原則を修正させ、労働者保護のため使用者側に対し種々の制約を設けているのです。


◆一般法としての民法と特別法としての労働法

 民法では、雇用期間を特に定めないで契約を締結した場合には、いつでも、使用者の側からも、労働者の側からも、解約の申し入れができます(627条1項)。つまり、民法上解雇は自由にできました。一方、労働法。「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は」、権利濫用として無効です(労契法16条)。
 また、民法上は、いつでも解約の申し入れができ、2週間経過したら雇用は終了します(627条1項)。これに対し労働法。解雇の場合、少なくとも30日前の予告が必要です(労基法20条1項)。このように、解雇の理由や解雇の効力発生時期に関し、「特別法は一般法に優先する」という原則があるのです。
 それでは、一般法の存在意義はないのか。そんなことはありません。「特別法に定めがないときは、ー般法が適用される」という原則があるからです。
 たとえば、労働者からの一方的な解約の意思表示である辞職について、労働法には何の定めもありません。民法は、労働者側からは、いつでも解約の申し入れができ、原則として2週間経過したら雇用は終了(627条1項)。労働者側からの解約は、これが根拠規定となっているのです。

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