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時間外労働の上限規制をどう守るか

Q.

 2018年6月に成立した働き方改革関連法は、時間外労働の上限規制について、新たな基本的枠組を呈示しました。すなわち、長時間労働の是正という観点から、従来の限度基準告示(平成10年労働者告示154号)を法律に格上げして違反に対して罰則の対象とするとともに、臨時的な特別の事情がある例外的な場合であっても、上回ることのできない時間外労働の上限が設定されました。いよいよ本年(2020年)4月1日から、中小企業にも適用されます。

A.

 使用者が労働者に対し法的に有効に時間外・休日労働をさせるためには、2つの要件が必要です。第1は、労使協定の締結・届出という労基法上の要件を満たすこと(36条)。第2は、労働者の時間外・休日労働を基礎づける契約上の根拠があること。後者について判例は、就業規則を根拠とした包括的同意説に立つことを明らかにしています。中小企業がこのたびの上限規制を守るのはかなり難しいこと。法違反にならないためのチェック・ポイントを見ていきましょう。


◆時間外労働の上限規制の内容と対応

 まずは、原則的な限度時間(改正労基法36条3項・4項)から。
 それは、1ヵ月45時間かつ1年360時間です。残業時間が比較的少ない企業については、この上限が適用されます。
 つぎに、特別条項を定める場合の上限規制(改正労基法36条5項・6項)。限度時間を超えて労働時間を延長しなければならない臨時的な事情により、36協定に特別条項を付ける場合です。残業時間が比較的多い企業が該当します。

① 時間外労働は年720時間以内
② 時間外・休日労働は月100時間未満
③ 複数月平均の時間外・休日労働の平均は80時間以内
④ 時間外労働が月45時間を超える特例の適用は年6回以内

 ②は、「100時間未満」です。1ヵ月でも100時間を超えれば法違反、アウトになります。
 ③の「複数月平均」とは、2ヵ月、3ヵ月、4ヵ月、5ヵ月、6ヵ月の各月平均で、いずれにおいても、休日労働を含んで80時間以内を満たさなければならないということです。
 原則的な限度時間の場合も、特例の場合の限度時間の場合も、上限を超えて労働させると6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます(改正労基法119条1号)。
 改正法施行後は、時間外労働時間数と休日労働時間数の合計を把握し、1ヵ月の上限だけでなく、直近2ヵ月から6ヵ月までのいずれの期間においても月平均80時間を超えていないかを確認しなければなりません。リアルタイムで正確な労働時間を把握し、上限を超えないように管理を行うことが必要となります。これも、中小企業がクリアしなければいけない実務上の経営課題です。


◆時間外労働の上限規制の問題点

 今回の法改正で、原則限度時間の「1ヵ月45時間かつ1年360時間」にも、特例の場合の限度時間である「1年720時間」および「月45時間を上回る回数年6回以内」にも、「法定休日労働」は含まれていません。脱法行為を指南するつもりはありませんが、法定休日労働時間を組み合わせることにより、法違反とならない時間外労働が可能となるのは問題です。
 また、改正労基法施行後においても管理監督者については、労働時間、休憩および休日に関する規定の適用が除外され、上限規制は適用されません(41条2号)。ここでは、職制上の管理職が、そのまま労基法でいう管理監督者に当たるものではないことを指摘しておきます。
 さらに、上限規制が導入されると、自社の労働時間を抑制するために、下請業者や自営業者などに対する発注が増えることも予想されます。
 守るべきは労働者の健全な心身。法律を守るために本末転倒にならないようにしたいものです。

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