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労働実務Q&Aこれで解決!

民法の一般条項と労働法

Q.

 民法は明文で次のような原則を定めています。①〈信義誠実の原則〉「権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない」(民法1条2項)。②〈権利濫用の禁止〉「権利の濫用は、これを許さない」(民法1条3項)。③〈公序良俗違反〉「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」(民法90条)。これらの規定は、労働判例や労働法でたびたび登場し、散見されます。どうか俯瞰・整理してみて下さい。

A.

 このような法律行為の要件などを抽象的に定めている規定のことを一般条項といいます。一般条項は、制定法の限界を補完するために用意されたもの。つまり、一般ルールをそのまま適用したのでは不都合な結果が生じる場合があり、そのような不都合を是正する役割があるのです。原則に対する例外規定です。しかし、労働法の分野においては、膨大な裁判例や判例法理として展開し、原則と例外は逆転。労働法における各種の制定法として結実しています。


◆信義誠実の原則

 信義誠実の原則とは、私権の行使や義務の履行は、相手方から期待される信頼を裏切らないように、誠意をもって行動すべきである、という原則です。一般に「信義則」といわれています。労働契約関係においても重要な役割を担っていることに鑑み、労働契約法3条4項に明記されました。
 安全配慮義務は、判例により確立された法理であり、特別な社会的接触関係にある当事者間において、その法律関係の付随的義務として信義則に基づき生ずるものであると位置づけられています。
 労働契約法5条は、判例法理を明文化したものであり、使用者の労働契約上の安全配慮義務を立法上明確にしたものです。
 ただし判例は、「特別な社会的接触関係」にあるとして、雇用主以外に義務主体を拡張させているので、注意が必要です。


◆権利濫用の禁止

 権利濫用の禁止とは、外形上は権利の行使のようにみえても、具体的な場合に即してみると権利の社会性に反し、権利の行使として是認することができないというもの。
 労働契約法は、「労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当っては、それを濫用することがあってはならない」(3条5項)と規定。労使双方を名宛人としていることが注目されます。
 権利濫用といえば、判例で確立した解雇権濫用法理。労働契約法では、出向命令権の濫用(14条)、懲戒権の濫用(15条)、解雇権の濫用(16条)等の法理が明文化されました。
 指揮命令権、業務命令権、人事考課権、配転命令権などは明文化されていません。したがって、労働契約法3条5項は、それらの権利濫用を抑制するための一般規定とみることができます。


◆公序良俗違反

 「公の秩序」とは、社会の一般的秩序、「善良な風俗」とは、社会の一般的道徳観念であり、両者を併せて「公序良俗」といいます。公序良俗に反するときには、実質的に違法な行為として無効とされます(民法90条)。
 民法90条の公序良俗規定を媒介として様々な差別や格差を救済してきた判例や裁判例は枚挙にいとまがありません。その嚆矢となるのが、女性従業員の結婚退職制、若年定年制、男女別賃金管理などについて形成されてきた男女平等取扱いの公序法理です。その後、男女雇用機会均等法の成立、改正によりいくつかの法理は明文化されました。しかし、判例法理は並存しており、同法を補う機能を果たしています。
 以上の関係とパラレルになるのが、産前産後休業等を理由とする不利益取扱いと育児・介護休業法の制定と改正、正規・非正規労働者の賃金格差とパートタイム・有期雇用労働法の制定等にみることができます。いずれの判例法理も法律を補充するものとして併存しています。

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