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労働実務Q&Aこれで解決!

楽しむ力

Q.

 今年35周年を迎える従業員50人規模の健康食品メーカーです。創業以来経営トップを続けてきた父に代わり、今年から息子である私が社長に就任します。悩みの種は、幹部社員の人材育成。人間には3つのタイプがある、と聞いたことがあります。火を近づけると燃え上がる可燃性の人。火を近づけても燃えない不燃性の人。自分でカッカと燃え上がる自燃性の人。現在の幹部社員は全員可燃性タイプ。自燃性の人になってもらうには、どのような教育が必要ですか。

A.

 人材育成は、企業が発展するために不可避なもの。その着眼点もすばらしいです。ただし、人材育成には前提条件があります。社員が、あなたに対して聴く耳を持っているかどうかということです。聴く耳を持たせるには、あなたが社長にふさわしい人間性や人格を持ち、社員から信頼と尊敬を得ることが必要です。人材育成とは、育成する側の人間としての器量を大きくすることでもあるのです。自燃性タイプに成長させるには、心から楽しく仕事ができる技を伝授することに尽きます。


◆知・好・楽

 子日 知之者不如好之者 好之者不如楽之者 (子いわく これを知る者はこれを好む者にしかず これを好む者はこれを楽しむ者にしかず)何かを知っているというのは、それを好きだという境地に及ばない。愛好することは、楽しんでいる境地の深さには及ばない(『論語』雍也篇)。
 仕事も学問も、趣味も人生も、楽しんだ者こそ強いのだ、と孔子はズバリ言い放っています。やる気と情熱、心の余裕にどうしても差が出てしまうからです。楽しむ力は少々の苦難でも乗り超えさせてくれる強力なパワーを秘めているのです。
 自燃性人間のメンタリティーを分析してみると――。知的好奇心が旺盛で勉強好き。感受性が豊かなので、世間と人間を偏見なくおもしろがることができます。目的意識や使命感に富み、行為の意味づけ(センス・メイキング)が巧み。いずれも後天的に身につけたものです。


◆郷土産の名コラボ

 おもしろき こともなき世を おもしろく すみなすものは 心なりけり
 上の句を高杉晋作が辞世として書き、下の句を歌人野村望東尼が続けたとされている和歌の合作。おもしろくもない世の中をおもしろく住み暮らしてゆくのは、心の持ち方次第だよ、という意味です。
 作家司馬遼太郎さんは、吉田松陰と高杉晋作の生涯を描いた『世に棲む日日』という小説でこのエピソードを紹介。下の句を聞いた高杉が息を引きとる前に、「……面白いのう」と言わせています。かてて加えて、小説ではこの歌を2度も引用し、小説のタイトルにも。相当な思い入れが感じられます。
 人間社会に宿命的につきまとう不幸感でさえ、自己充足して命を完全燃焼させ、生き抜くことが肝心だという高杉のダイイングメッセージ。萎えた心を鼓舞してくれる名コラボであり、私が愛用しているマントラの1つです。


◆仕事と心のあり方

 人はなぜ働かねばならないのか。食べるため、餓死しないために働くのです。地球上の全生命体が背負っている宿命であり、自然の摂理。人間とて例外ではありません。したがって、仕事は本来容易いものではなく、辛く、苦しく、憂鬱なものです。
 であるからこそ、「真の達成感や充実感は、多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意や絶望と隣り合わせに存在している。つまり、それらはわたしたちの『仕事』の中にしかない」のです(村上龍著『無趣味のすすめ』)。
 このような仕事観を持って、仕事を「楽しいと思う」ことが大事なのです。中村天風さんが、「人生は心一つの置きどころ」と喝破したように、心には人生を意のままにする力があるのです。経営者は、自ら自燃性人間を体現しながら、従業員に対し、人間としての心のあり方を説かねばならないのです。

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