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賃金請求権の消滅時効期間の延長

Q.

 厚生労働省は、2018年度の「監督指導による賃金不払残業の是正結果」を発表しています。それによると、 1企業当たり100万円以上となった事案の是正企業数は、1,768企業(うち、1,000万円以上は228企業)。対象労働者数118,680人、支払われた割増賃金の合計額は、124億4,883万円。1企業平均では704万円、労働者1人当たり10万円となっています。このたび、賃金請求権の時効期間が延長されたと聞いています。残業代未払請求の紛争が増大しそうですね。

A.

 賃金請求権の消滅時効期間は、今年の4月1日より、当面3年に延長されました。すでに公布されている改正民法の消滅時効が大きく変わり、本年の4月1日から施行されたことを受けた措置です。改正民法は、「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年」にシンプルに統一され、短期消滅時効も廃止されました。未払賃金請求問題は、いずれの企業においても起きかねない懸念すべき労務課題であり、リスクヘの対応が急がれます。


◆問題の所在と改正労基法の概要

 賃金請求権の消滅時効は、旧法では2年でした(労基法115条)。これは、民法の定める使用人の給料の1年という短期消滅時効(旧民法174条1号)の特則だったのです。ところが改正民法は、債権の消滅時効期間を5年で統一(改正民法166条1項1号)。しかしそうなると、労働者の保護を図った特別法である労基法が、私法の一般法である民法よりも短い消滅時効期間を定めることになり、それを改正すべきか否かが検討されてきました。国会に上程される前の労働政策審議会での議論は難航したようです。改正労基法は、施行日直前の2020年3月27日に国会で可決、成立しました。
 改正労基法は、消滅時効期間を原則として5年に延長。改正民法とのバランスを考慮しました。ただし、先の審議会で、使用者側から賃金台帳を長期間保管する負担が重いなどとの意見が出たことを踏まえ、当面は3年とする経過措置を設定。5年に延長するかどうかは、5年後に検討します。
 消滅時効の起算点はどうなるか。というのも、改正民法では、新たに「知った時から」といった主観的起算点が導入されたため、労基法上もどのような起算点にすべきかが議論されたのです。
 この点については、改正前の労基法の解釈、運用を踏襲して、客観的起算点(賃金支払日)であることを明確化しました。


◆未払残業代請求問題と時効期間の延長

 改正労基法の施行日は、民法の改正施行日に合わせ本年4月1日。既に生じている未払賃金についても3年の時効が適用されるのでしょうか。
 それは否定されています。施行日以後に賃金支払日が到来する賃金請求権について、新たな消滅時効期間を適用します。したがって、賃金の支払日が施行日前に来るものは改正前の2年の消滅時効となり、その支払日が施行日後に来るものは改正後の3年の消滅時効となります。
 さて、未払残業代請求問題。消滅時効期間の延長は、中小企業にとってリスクは増大します。割増賃金の計算方法は単純ではありませんし、勤怠管理の不徹底などから、経営者が意図せぬところで発生している可能性もあるからです。
 やっかいなのは、退職した労働者が、退職後に残業代を請求するケース。在職中はアクションを起こしにくいもの。この場合、1人について認められると、複数の社員から集団で未払賃金を請求され、多額になると会社の経営を揺るがしかねません。
 労働者側が駆け込むところも実に多彩。労働基準監督署、労働局、労働審判、裁判所、弁護士、司法書士、合同労組等々。
 基本は、上司の残業命令にもとづかない労働は時間外労働にならないということ。ダラダラ残業に異議を唱えないと「黙示の承認」とみられます。残業は「許可制」から「命令制」へ。

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