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労働実務Q&Aこれで解決!

長時間労働の是正と労基署への対応

Q.

 2018年6月に成立した働き方改革関連法には、「中小企業に関する経過措置」が定められました。それによると、行政官庁は、当分の間、中小事業主に対し、新労基法第36条第9項の助言及び指導を行うに当たっては、中小企業における労働時間の動向、人材の確保の状況、取引の実態その他の事情を踏まえて行うよう「配慮する」ものとする、とあります。本年4月から残業時間の上限規制が始まった中小企業。労基署は私たちに対し、多少のお目こぼしをしてくれますか。

A.

 働き方改革関連法では、日本の労基法史上初めて「罰則付き時間外労働上限規制」という概念が導入されました。 これまで「月45時間、年間360時間」という時間外限度基準は、法的強制力も罰則もない単なる告示でしたが、それが法律に格上げされ、違反した使用者に罰則が課されます。長時間労働の是正は、「働き方改革」の最重要課題のひとつ。答えは当然「ノー」です。配慮するというのは違反を見逃すということではありません。労働基準監督署は、法律で認められた職務権限を従来どおり行使してきます。


◆長時間労働の是正と労基署の重点夕ーゲット

 労働基準監督署は、労働条件の最低基準を定める労働基準法や労働安全衛生法などの実効性を確保することを目的として、全国に設置されています。厚労省の下に各都道府県の労働局があり、その下に労基署があり、ここに現場で監督を行う労働基準監督官がいます。
 厚労省は、コスト・パフォーマンスの観点から、毎年度の重点テーマや重点業種を定めています。厚労省が今年4月1日に公表した「令和2年度地方労働行政運営方針について」を読み解いていきましょう。
 今年度の最大テーマは、長時間労働の是正。
 第1のターゲットは、時間外・休日労働時間数が1ヵ月当たり80時間を超えていると考えられる事業場および長時間にわたる過重な労働による過労死等に係る労災請求が行われた事業場。36協定の特別条項で残業時間の上限が80時間を超えている会社、仕事の負荷による精神障害や脳・心臓疾患で労災請求をしている会社は要注意です。労基署にとっては、情報収集活動不要の身内にある既知情報ですから、会社側の言い訳は一切通用しません。
 第2は、外国人労働者、自動車運転者、障害者である労働者が働いている職場。とりわけ外国人技能実習生や特定技能外国人については、労働基準関係法令違反の疑いがある事業場に対して重点的に監督指導を実施し、重大または悪質な事案に対しては司法処分を含め厳正に対処する、としています。注目されるのは、外国人技能実習機構との「相互通報制度」。技能実習生の「失踪」事案では、強制労働等の人権侵害が疑われる可能性があり、連携が奏功すると思われます。


◆労働時間の管理と使用者の責務

 このたびの法改正では、従来の限度基準告示による時間外労働の上限だけでなく、休日労働も含んだ1ヵ月当たりおよび複数月の平均時間数にも上限が設けられました。このため、企業においては、これまでとは異なる方法での労働時間管理が必要となります。
 まずは、上限規制の内容に適合した36協定の締結と労基署への届出。つぎは、36協定に定めた内容を遵守すること。
 ポイントは次のとおり。①「1日」「1ヵ月」「1年」のそれぞれの時間外労働が、36協定で定めた時間を超えないこと。②休日労働の回数・時間が、36協定で定めた回数・時間を超えないこと。③特別条項の回数が、36協定で定めた回数(上限は年6回)を超えないこと。④毎月の時間外労働と休日労働の合計が100時間以上にならないこと。⑤月の時間外労働と休日労働の合計について、どの2~6ヵ月の平均をとっても、1ヵ月当たり80時間を超えないこと。
 使用者には、労働時間を適正に把握する責務があります。使用者は、労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数を確認し、賃金台帳に記入することが求められています。

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