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労働実務Q&Aこれで解決!

解雇と賃金

Q.

 労働者が解雇の効力について裁判で争い、当該解雇が違法無効と判決されたケースのおたずねです。会社側が敗訴となった場合、裁判所は、会社側に解雇期間中の賃金の支払いを命じます。労働者の労務の提供がないにもかかわらず、賃金支払いを命じられるのはなぜですか。この労働者が解雇期間中他の職に就いて賃金を得ていた場合に、使用者が支払うべき解雇期間中の賃金から他社で得ていた賃金を控除することができるでしょうか。

A.

 このような関係を規律しているのが、民法上の危険負担制度です。「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない」(改正前民法536条2項)としています。改正民法536条2項は、表現方法こそ異なっていますが、労働法における従来からの解釈は変更されるものではありません。もう1つは、使用者が支払うべき遡及賃金から中間収入を控除できるかという、いくつかの論点がからむ複雑な問題です。


◆解雇期間中の賃金

 労働契約法16条は、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当でない解雇の法律効果を「無効」としています。つまり、当該労働契約は解雇期間中も存続していたことになるのです。したがって、被解雇労働者は、労働契約上の地位確認訴訟を提起すると同時に、解雇期間中の未払賃金についても請求が可能ということになるのです。
 このような関係を処理する法技術が危険負担です。すなわち、違法な解雇という「使用者の責めに帰すべき事由」によって債務(=労務提供)を履行することができなくなった場合にあたるので、債務者(=労働者)は反対給付(=賃金)を受ける権利を失うことはないのです。
 解雇期間中の賃金請求権が認められた場合、その額は、当該労働者が解雇されなかったならば労働契約上確実に支給されたであろう賃金の合計額ということになります。


◆解雇期間中の賃金と中間収入

 解雇期間中に労働者が他の職に就いて利益(=中間収入)を得ていた場合に、使用者が支払うべき解雇期間中の賃金(=遡及賃金)額から中間収入を控除することができるか、その範囲はどこまで可能か、というのが次の問題です。3つの論点がからんでいます。
 判例は次のように解しています。第1に、民法536条2項後段が「自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない」と定めているので、解雇期間中の遡及賃金から控除できる。第2に、中間収入の控除は遡及賃金との相殺によることが可能であり、このような相殺は労基法24条の賃金全額払いの原則に反しないと解される。第3に、被解雇者は解雇期間について労基法26条により平均賃金の6割以上の休業手当を保障されているので、平均賃金の6割分は控除対象とすることができない(あけぼのタクシー事件 最判昭62.4.2)。
 なお、解雇権の濫用にあたる解雇は、不法行為として使用者に損害賠償を請求することも可能です(民法709条)。権利濫用にあたる解雇が当然に不法行為となるわけではありませんが、賃金支払いによっても補填されない精神的損害などの発生が肯定され、不法行為に該当するという裁判所の判断が必要です。


◆「解雇の金銭解決」の導入

 労働者の違法解雇が確定しても、労働者本人が同意していれば金銭で労働契約が解消される「解雇の金銭解決」の導入をめぐる研究が、厚労省の検討会で進んでいます。今年の6月18日には、2021年度末をメドに報告書をまとめることが閣議決定されました。
 ところが実際には、明文規定がない今も、実質的な金銭解決は広がっています。個別労働紛争解決促進法に基づいて労働局が開く「あっせん」と労働審判法に基づく裁判所の「調停」「審判」を舞台に、年間4500件もの金銭解決が行われているのです(「日本経済新聞」2021年7月26日付)。

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