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労働実務Q&Aこれで解決!

論語と算盤

Q.

 今、渋沢栄一が注目を集めています。テレビの大河ドラマのモデルになったり、新1万円札の顔となったり......。何よりも、彼は「日本資本主義の父」と称され、第一国立銀行や東京証券取引所をはじめとして500余の企業をつくり、現代ビジネスの礎をつくりました。その代表的著作(厳密には講演録)が『論語と算盤』。資本主義は放っておくと暴走する。だから、日本の伝統的価値観をつかって歯止めをかけようとしたもの、と理解してよろしいですか。

A.

 「論語と算盤の一致」を唱えたことが重要です。つまり、金儲けに走る商人に対し、論語がブレーキの役割を果たすトレード・オフ(何かを得るために他の何かを犠牲にすること)の関係ではなく、道徳的であることが長期的にはいちばん儲かる、という話なのです。渋沢栄一が関与した非営利活動の団体数は600と言われ、営利活動の団体数を上回っています。CSR(企業の社会的責任)といった言葉が登場する100年以上も前に、その本質を実行していたのですから驚きです。


◆“道徳経済合一説”と士魂商才

 『論語』に象徴される道徳と、お金を儲ける経済という、一見かけ離れた2つを融合させること。これが『論語と算盤』の本旨です。
 たとえば、「そろばん勘定」が上手なら、自分の懐は潤うでしょう。しかし、それがその人1人のための利益に過ぎず、社会全体に利益をもたらさないのであれば、いずれ、個人の幸福や生活も衰え失われて、持続できなくなるかもしれません。
 個人も社会もサステナブル(持続可能)であるためには、『論語』と「そろばん」の両方が必要なのです。
 つぎに、士魂商才。武士の精神と商人の才覚をあわせもつことを提唱しています。ここでいう“士魂”とは、社会的責任を忘れないリーダーの高い志です。
 経営学者のP・F・ドラッカーは、次のように絶賛しています。「率直にいって私は、経営の『社会的責任』について論じた歴史的人物の中で、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の1人である渋沢栄一の右に出るものを知らない。彼は世界のだれよりも早く、経営の本質は『責任』にほかならないことを見抜いていたのである」(『マネジメント』日本語版序文より)。渋沢栄一の思想と行動は、世界に通用する先進性と普遍性を持っていたのです。


◆心と富を培ういくつかの教え

 『論語と算盤』は、現代の私たちに対し、心と富の捉え方について、いくつかの意外な教訓を残しています。
 その1は、欲を肯定していること。欲は抑えず、大欲を持てと言っています。欲は人間の本性、本能に忠実なもので、否定していません。欲望は成功へのエネルギー。肝心なのは、欲望を捨てることではなく、欲を持ちつつ、それをコントロールすることなのです。
 その2は、富は卑しいものではないこと。明治の初めには、人として品性高くあれ、と心がけるなら、富や地位を嫌うべきである、という偏見がありました。しかし、富自体は卑しいものではありません。正しい方法で得た富は、誇ってもよいものです。
 その3は、優れた人格とお金儲けは立派に両立すること。慈愛の心を持って、社会のために行動する人は、きっとお金儲けなどはしない天使のような人だ、という誤解があります。競争は、何事にも伴うもの。法とルールを守って競争に勝つ立派な人格の持ち主も、多く存在します。お金儲けと社会貢献とを両立させている人は、世界の実業界には数え切れないほどいるのです。
 その4は、すべては心の持ち方次第であること。世間で起きるすべてのことが、あなたにとって楽しいものか、それともつまらないことなのか。それを決めるのはあなた自身です。難問だらけの世界。リスクを承知の上でチャレンジできるから、人生は面白いのです。

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