HOME >これで解決!労働実務Q&A>コンプライアンス・人材育成>条文と判例の読み方サイトマップ
労働実務Q&Aこれで解決!

条文と判例の読み方

Q.

 このたび、会社の法務部に配属となりました。企業の活動は、経営資源である「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」に関する企業活動、および企業の付加価値を実現する「販売・サービス」提供活動に分類でき、非常に多岐にわたります。したがって、会社に関わる法律も企業活動に対応して、膨大な数と量です。上司からは、生の法律の条文や判例をよく読み、親しむよう指示されました。法律の条文や判例を読むコツや留意点のようなものがありましたら、ご教示ください。

A.

 法律の条文をよく読むことはとても大事です。なぜなら、法律とはまず条文であり、具体的な事案に関し、裁判の基準となるものですから。どのような状況をどのように規律しようとしているのか、疑問をもってよく考えながら読み、その後で解説書を読むと理解が深まります。ついで、判例も重要。判例は、条文の意味内容を公権的に確定したものです。判例により、法律がどのように解釈され、適用され、紛争を解決しているのか、具体的に知ることができるのです。


◆条文の構造―要件・効果・立法趣旨

 法律とは、端的にいうと条文です。条文は、①どういう場合に、②どういうことになるのか、という規定の仕方をしています。①が(法律)要件であり、②は(法律)効果です。要件とは、条文が適用される条件。効果は、条文が適用された場合の結果です。法的効果は民事法であれば、権利義務が発生・消滅し、刑事法であれば、刑罰が科されます。
 条文には直接書いてありませんが、それぞれの立法趣旨や、条文のグループ全体の制度趣旨というものがあります。これを理解しないと法律の勉強は進みません。立法趣旨や制度趣旨を知ることにより、要件や効果の理解が楽になり、条文の解釈も深まってゆくのです。
 したがって、条文を読む手順としては、立法趣旨は何かということを押さえたうえで、要件、効果を確認していくことになります。
 たとえば、民法709条の不法行為。「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を」が〔要件〕。「賠償する責任を負う」が〔効果〕。〔立法趣旨〕は、過失責任の原則、被害者の救済、損害の公平な分担等。
 刑法235条の窃盗の場合。〔要件〕「他人の財物を窃取した者は」。[効果]「窃盗の罪とし、10年以上の懲役又は50万円以下の罰金に処する」。刑法では「立法趣旨」とはいわず、「保護法益」といいます。235条の〔保護法益〕は、占有の保護です。


◆法律の適用=法的三段論法

 具体的事実を法律の条文にあてはめて結論を出すことを「法律の適用」といいます。大学の法学部で学ぶ大部分は「法律解釈学」ですが、解釈は条文のあてはめの前提となるものです。あてはめとは、形式論理学における演繹推理の三段論法を法律の適用に応用したもので、法的三段論法といわれています。
 まず、最初の1段めが「大前提」という理論的枠組み。2段目には、「小前提」という現実の争いごとがあります。3段目が「あてはめ」。先の大前提を行為という小前提にあてはめ、演繹的推理を行って結論を得ます。
 〔大前提〕「Aにあたる事実があればXという法律効果を生ずる」(A=X)。これが「法規」(条文)であり、解釈を要する部分。
 〔小前提〕「その事件においてAにあたる事実があった」(B=A)。これが「事実」(要件事実)であり、事実認定が必要。
 [あてはめ〕「ゆえに、その事実においてXという法律効果が生ずる」(B=X)。これが「結論」であり、法律効果でもあります。
 このように、あてはめ(該当性)の仕方を習熟することが、法律解釈学のイロハのイであり、終着点でもあるのです。裁判所は、現実の争いごとに対し、条文解釈をしながら法律を適用し、紛争を解決しています。判例は、法の適用方法を学ぶ格好の実例です。

ページトップ