人事権
Q. 企業実務においては、人事権という言葉はかなり定着していると思います。裁判所においても、人事権は使用者に所属する基本的な権利であると認めています。一方、人事権という概念については、意味があいまいで、定まった定義が確定しているわけではありません。というのも、人事権について規定した法律もありませんし、労働契約の条項に記載されることもないからです。あらためて、人事権とは何ですか。人事権概念が定着した要因は何でしょう。 |
A. たしかに、実務や裁判では、説明ぬきで、人事権という言葉が独り歩きしているようです。いくらか説明を加えた次のような裁判例も。「従業員の配置、異動、担当職務の決定及び人事考課・査定、昇進・昇格等は、使用者が、企業主体の立場で事業の効率的遂行や労働の能力意欲を高めて組織の活性化を図るなどの観点から、人事権の行使として行うものである。このような人事権の性質上、その行使は相当程度使用者の裁量的判断に委ねられる」(トナミ運輸事件 富山地判平17・2・23)。 |
◆人事権の概念と法規制 通常、人事権とは、採用、配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、休職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者の決定権限をいいます。 ◆人事権概念の定着の要因
日本に人事権概念が定着した要因の1つは、日本型雇用システムです。日本型雇用システムは、新卒一斉定期採用を労働力補充の原則的方法とし、これら若年労働者に定年までの長期的雇用を提供したうえ、系統的な教育訓練と人事異動を実施して、そのキャリアを発展させる仕組み。この仕組みは、労働者の職業能力の養成・発展や配置・異動等についての企業の幅広い決定権限を必要とするのです。 ◆顕在化する課題と人事権
今日、グローバル化の進展など経営環境の変化に伴い、従来の日本型雇用システム=メンバーシップ型雇用一辺倒では限界に来ている、という指摘が多くなされています。 |