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労働実務Q&Aこれで解決!

人事権

Q.

 企業実務においては、人事権という言葉はかなり定着していると思います。裁判所においても、人事権は使用者に所属する基本的な権利であると認めています。一方、人事権という概念については、意味があいまいで、定まった定義が確定しているわけではありません。というのも、人事権について規定した法律もありませんし、労働契約の条項に記載されることもないからです。あらためて、人事権とは何ですか。人事権概念が定着した要因は何でしょう。

A.

 たしかに、実務や裁判では、説明ぬきで、人事権という言葉が独り歩きしているようです。いくらか説明を加えた次のような裁判例も。「従業員の配置、異動、担当職務の決定及び人事考課・査定、昇進・昇格等は、使用者が、企業主体の立場で事業の効率的遂行や労働の能力意欲を高めて組織の活性化を図るなどの観点から、人事権の行使として行うものである。このような人事権の性質上、その行使は相当程度使用者の裁量的判断に委ねられる」(トナミ運輸事件 富山地判平17・2・23)。


◆人事権の概念と法規制

 通常、人事権とは、採用、配置、異動、人事考課、昇進、昇格、降格、休職、解雇など、企業組織における労働者の地位の変動や処遇に関する使用者の決定権限をいいます。
 もっとも、いくつかの局面では、法規制を受けます。解雇の法規制(労基法20条、21条)、均等待遇原則(労基法3条、4条)、女性の機会均等(雇均等法5~7条、9条)、不当労働行為の禁止(労組法7条)、短時間・有期雇用労働者に対する差別的待遇の禁止(パート・有期労働法8条、9条)など。
 もちろん、労働協約、就業規則、労働契約などの制約もあります。
 したがって、使用者は、これらの規制の範囲内で、一方的決定権限としての人事権を有することになるのです。


◆人事権概念の定着の要因

 日本に人事権概念が定着した要因の1つは、日本型雇用システムです。日本型雇用システムは、新卒一斉定期採用を労働力補充の原則的方法とし、これら若年労働者に定年までの長期的雇用を提供したうえ、系統的な教育訓練と人事異動を実施して、そのキャリアを発展させる仕組み。この仕組みは、労働者の職業能力の養成・発展や配置・異動等についての企業の幅広い決定権限を必要とするのです。
 もう1つの要因が、法的構成としての「包括的合意説」という考え方。すなわち、労働者は労働契約によって労働力の処分権を使用者に委ねた以上、経営権の行使としてなされる人事権などにもとづく指示ないし命令に服するべき義務があるという考え方です。包括的合意説は、特段の合意がなくても、労働契約が締結されたというその事実だけで、使用者は労働者の配置や配転などを決定する基本的な権限を持つと考えるのです。


◆顕在化する課題と人事権

 今日、グローバル化の進展など経営環境の変化に伴い、従来の日本型雇用システム=メンバーシップ型雇用一辺倒では限界に来ている、という指摘が多くなされています。
 たとえば、新卒一括採用を重視した結果、中途・経験者採用を相対的に抑制していること。年功型賃金制度が優秀な人材や専門的技能を有する高度人材の獲得を困難にし、社外や海外への人材流出リスクの増大が懸念されていること。企業主導の人事異動が企業の意向と働き手の希望とのミスマッチを生じさせ、働き手のキャリア形成意識を低下させていること等々。
 労働契約関係も大きな変貌をとげつつある現在、人事権という包括的な概念だけで企業運営することには限界があるようです。
 労働者の選択や個別的同意をも入れつつ、きめ細かな人事管理が必要とされています。人事管理に伴うあらゆる人事措置が、労働契約上の根拠にもとづき、その範囲でなされるよう、模索されるべきでしょう。

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