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労働実務Q&Aこれで解決!

労働法規の努力義務規定

Q.

 労働条件保障の先駆である労働基準法は、罰則規定(117条~120条)を用意するとともに、同法に違反する労働契約を無効とし(強行的効力)、無効となった部分は法律で定める基準による(直律的効力)とする強力な私法上の効力を与えられています(13条)。一方で、努力義務規定(1条2項)も置き、法の強制方法(規制手法)が多彩です。労働法規のなかには、努力義務規定が多く散見されるような気がします。努力義務規定にどのような存在意義があるのでしょう。

A.

 たしかに、男女雇用機会均等法、育児介護休業法、高年齢者雇用安定法、パート・有期労働法、労働者派遣法等においては、「するよう努めなければならない」というような規定があります。これらの規定は、直接私法上の効力を発生させることはありません。当事者が、あくまで任意的に達成すべき努力目標を設定するにすぎないものです。ただし、努力義務規定に法的効果がまったくないのかといえば、そうはいいきれない。それなりに意味をもちうる規定なのです。


◆努力義務規定の2つの類型

 努力義務規定には、2つの類型があります。
 その1は、訓示的抽象的努力義務規定。たとえば、労働基準法1条2項の「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない」という規定です。
 当該立法の趣旨・目的を示しつつ、関係当事者の努力を促す訓示規定にすぎません。規定例は、少なくないようです。
 その2は、具体的努力義務規定。たとえば、ある規制を導入したいけれどそれを強行的に守らせるだけの基盤が整っていない場合に、まずは努力義務規定によって当事者の意識改革からはじめて、徐々により効力の強い規定に変えていくという手法です。
 前者の類型が、およそ実効性確保が問題とならない訓示的・抽象的努力義務規定であるのに対し、後者の類型は、実効性確保がまさに議論の焦点となる具体的努力義務規定という違いがあります。
 多くの例がありますが、その典型は、たとえば、高年齢者雇用安定法にみることができます。60歳定年の努力義務規定(1986年)が、一定期間経過後に強行規定化(1994年)。ついで、65歳までの継続雇用努力義務(1990年)も、一定の緩和措置を伴いつつも強行規定化(2004年)されました。
 努力義務規定とはいえ、少なくとも当事者の意識改革や雇用慣行に一石を投じ、変化をもたらすという役割を果たす可能性があるのです。しかし、これは法律上の効力とはいえません。


◆努力義務規定の法的効果

 努力義務規定は、それ自体から具体的な私法上の効果が発生するとは解されてはいません。ただし、具体的努力義務規定については、強行的規制も可能な事項を対象としており、法解釈上何らかの意義を見出せないでしょうか。
 努力義務規定の存在は、公序法理の適用を排除するものではないので、公序良俗に反する不当な取扱いは民法90条により無効となり、不法行為により損害賠償請求の対象となる(民法709条)ことが考えられます。
 2020年の高年齢者雇用安定法改正により、70歳までの就業機会の確保を図る目的で、65歳から70歳までの高年齢者就業確保措置を講じることが事業主の努力義務とされました(改正高年齢者雇用安定法10条の2)。
 厚生労働大臣は、高年齢者就業確保措置(5つの選択肢)の実施・運用について指針を定め(同条4項)、必要があるときには事業主に指導・助言および計画の作成・変更の勧告をすることができます(同法10条の3)。
 努力義務規定は、裁判所による履行確保ではなく、行政上の諸種の施策の根拠となり、それらの行政措置を通じて努力義務の実効性を確保することが企図されています。これらは、努力義務の公法上の効果といえるものです。

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