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労働実務Q&Aこれで解決!

就業規則による労働条件の不利益変更

Q.

 就業規則をめぐる最大の難問。それは、就業規則の変更によって労働条件を不利益に変更した場合、反対する労働者もこれに拘束されるかという問題です。というのも、労働者本人の合意を根拠とする労働契約や、労働者の代表たる労働組合が締結する労働協約と異なり、就業規則は使用者が一方的に作成・変更できるもの。これに関する明文規定も存在しない。契約は守られるべしという法原則と継続的関係における変更の必要性との調整という究極の選択です。

A.

 おもしろいのは、この議論が就業規則の法的性質論とからみあっているところ。就業規則が労働契約の内容として法的拘束力をもつとすれば、それはどのような法的根拠によるかという問題です。有力なのが次の見解。就業規則はそれ自体が法規範なので労働者を拘束するというのが「法規範説」。不利益変更された就業規則は労働者が明示・黙示に同意しない限り、契約内容とはならず、拘束しないというのが「契約説」。この2説に様々なバリエーション(4派13流といわれる)があったのです。


◆判例法理の展開と労契法による成文化

 最高裁は、「秋北バス事件」大法廷判決(最判昭43・12・25)において、先の2つの論点について、新たなルールを定立しました。
 まず、就業規則の法的性質論について。就業規則は、「それが合理的な労働条件を定めているものであるかぎり、経営主体と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っている(民法92条参照)ものということができる」と判示しました。
 判決は、法規範説、契約説のいずれにも与するものではありません。ただし、今日では、合理性を要求することで労働者保護に配慮した法的構成(定型契約説)として、学説にも受容されているようです。
 つぎに、就業規則の不利益変更論について。「新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とす就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない」と判示しました。この判例法理は、今日では完全に確立し、学説からも支持を増やしています。
 労契法9条および10条は、この確立した判例法理をそのまま立法化したものです。「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者に不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない」と合意原則を明定(9条)。
 その例外として、①変更後の就業規則を労働者に周知させること、②当該就業規則の変更が合理的なものであることを要件に、労働条件は当該変更後の就業規則の定めるところにより変更されると定めました(10条)。


◆合理性の判断要素と判断手法

 就業規則変更が拘束力をもつのは、それが「合理的なものであるとき」です。では、いかなる場合に合理性が認められるのでしょうか。
 合理的判断について、判例法理の到達点を示したのが「第四銀行事件」最高裁判決(最判平9・2・28)。判決は、「合理性」について「当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性」と表現しています。
 労契法は、判例の判断要素を、「労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更に係る事情」の5項目(判例は7要素)に整理しています(10条)。
 判例は、合理的判断は、上記の諸要素を「総合考慮して」行うと述べていましたが、この合理的判断手法は、労働契約法においても基本的に妥当することになります。

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