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労働実務Q&Aこれで解決!

賃上げの源資と方策

Q.

 「世界的に見て、日本人の給与は低すぎる」とか、「過去四半世紀、日本の賃金はほとんど上がっていない」という声をよく聞きます。ここへ来て、政府も、大企業の経営者や労働組合も、労働者の賃上げには積極的。賃上げは、国民の生活水準向上の基盤となり、日本企業の持続的発展、ひいてはわが国の経済社会発展にとって不可欠といえるからでしょう。しかし、中小企業の現状は厳しい。中小企業が従業員の賃上げに取り組む場合の考え方と方策を教えて下さい。

A.

 賃上げには、当然、元手(もとで)が必要です。お金が天から降ってくるわけではありません。賃上げの源資がいったいどこにあるのか、正しく把握している経営者は意外と少ないようです。従業員とて同じ。「現場の人手が足りないので、もっと人員を増やしてほしい」と安易に言ったりします。貸上げの源は、付加価値。会社全体が、最小の時間で最大の付加価値を生み出す組織となること。労使が一体となって稼ぎ、労使で分配しなければ、お金はどこからも来ません。


◆付加価値生産性を向上させる

 企業は、より大きな付加価値を効率よくつくり、社会を豊かに、より快適にするという社会的使命を担った組織です。日本の会社、とりわけ中小企業は、最小の資本と人とで、最大の付加価値を創出する力が残念ながら弱い。
 厳密には、「1人1時間あたりの付加価値生産性」が低いのです。ここでいう付加価値とは、粗利とか加工高といわれているもの。売上高から原材料費や外注加工、その他外部からの購入費用を差し引いた金額のこと。「付加価値生産性」とは、一般的に「付加価値額÷労働量」という計算式で算出されます。
 会社の利益も従業員の給料(人件費)も、会社の付加価値から生まれます。会社は顧客や社会に効率よく高付加価値を提供する。お客は喜んで商品を購入し、会社が利益を上げる。その結果として、従業員の給料を上げる。このような循環を全社一丸となって作るのです。


◆意識の変革を迫られる

 経営者は、会社を高収益にしたいと考えます。高収益とは、売上高から、人件費を含めた各種費用を差し引いた、残りの利益を高めること。一方、従業員は、高給与を望む。人件費を削減したいと考える経営者と、高給与を得たいと考える従業員。両者の考えは相反します。この矛盾、ジレンマをどうするか。
 両者が、Win-Winにする方法を考えましょう。まず経営者。企業経営の目的とは何か。企業に集う全従業員の物心両面の幸福を追求すること。従業員の協力を得て、全員参加の経営を行うための必須の経営哲学です。従業員は、その目的追及のためのパートナー(同志)です。
 従業員はどうか。お金をもらうから働くのではない。働いて価値を生み出したから、その対価としてお金をもらっているのです。これが給与の本質。共同経営者として業績を上げ、その責任を負う。「経営者意識」をもたねばならないのです。

◆「高収益」と「高給与」の同時実現

 付加価値提供の結果として発生した収益の分配が給与。だとすれば、まずは経営者も従業員も、全社一丸となって付加価値を生み出すことに集中すべきです。参考になるのが、京セラの経営管理手法である「アメーバ経営」。「1時間あたりの付加価値」という経営指標を重視し、その数値を高めるよう全員が創意工夫をします。経営者と全従業員が経営理念や経営ビジョンを共有し、ベクトルをそろえることが肝心です。
 獲得した付加価値を人間と資本へどう分配するかが、つぎの課題です。経営者は、従業員に対し、事前に、これだけの利益が上がったら、これくらいの割合で従業員に還元しますと約束すること。信頼とコンセンサスが前提条件。
 最後の段階が、収益を個々の社員に分配する仕組みづくり。評価制度を基軸とした賃金・人事システムの構築です。個々人への貢献度に応じることはもちろんですが、組織全体の生産性を高めるにはどうすればよいのかが重点ポイントです。

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