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労働実務Q&Aこれで解決!

労働条件の明示と転勤制度

Q.

 多くの会社の就業規則は、業務上必要のあるときは、従業員を配置転換したり転勤を命ずることができる、としています。職務や勤務場所について限定特約がなければ、会社の配転命令は業務命令として有効です。ゆえに、命令に従わない場合は懲戒処分もできる。最悪の場合、懲戒解雇もあり、ということになります。辞令1つで社員に転勤を命じられる雇用慣行は、先進国のなかでも異質。この転勤制度については、最近、風向きが変わりつつあるとか。

A.

 今年(2024年)の4月から、労働条件明示のルールが変わりました。従来は、雇用・募集の際、採用直後の勤務先を明示すればよかったのですが、今後は、勤務する可能性のある場所と業務を事前に告知する義務が企業に課せられたのです。対象となるのは、正社員だけでなく、パート・アルバイト、契約社員、派遣労働者や定年後の再雇用労働者なども含みます。国は、既存の社員についても、トラブルを防止するため、同様の対応をすることを推奨しています。


◆労働条件明示事項の追加

 労働契約は、労使の合意によって成立する諾成契約。法律は、労働契約書の作成を義務づけていないのです。
 ただし、使用者は、労働者を雇い入れるに際して、労働条件を明確に示さなければならず、一定の事項については書面によって明示しなければなりません(労基法15条1項、労規則5条)。今年の4月より、労働条件明示事項が追加されました(下線部が追加項目)。
 書面の交付により明示しなければならない事項は次のとおり。①労働契約の期間、②有期労働契約を更新する場合の基準(有期労働契約の通算期間または更新回数の上限を含む)、③就業の場所・従事すべき業務(就業場所・業務の変更の範囲を含む)、④始業・終業の時刻、所定労働時間を超える労働(早出・残業等)の有無、休憩時間、休日、休暇および労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項、⑤賃金の決定、計算・支払いの方法および賃金の締め切り・支払いの時期、⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)。
 「就業場所と業務の変更の範囲」について労働契約の締結時と、有期労働契約の更新時に、書面による明示が必要になります。配置転換先の場所や業務のことです。
 「変更の範囲」とは、今後の見込みも含め、その労働契約の期間中における就業場所や従事する業務の変更の範囲のことをいいます。就業場所・業務にまったく限定がない場合なのか、一部に限定がある場合なのか、あるいは完全に限定されている(就業場所や業務の変更が想定されていない)のかを明確に示し、認識を共有することを求められています。
 労働契約締結・更新時だけでなく、労働者の募集を行う場合にも、求職者に対して、同様の明示が必要となります(職業安定法施行規則4条の2第3項)。


◆過渡期を迎えている転勤制度

 配置転換のうち、同一勤務地での所属または職種の変更を「配置換え」といい、勤務地の変更を伴うものを「転勤」といいます。
 転居を伴う転勤は生活環境が一変します。夫が外で働き、妻が家庭を守るといった性別役割分担が根強い時代なら、家族一緒の引っ越しもできました。しかし現代では、共働きが増え、マイホームの取得、子育てや介護の事情を抱えている社員も少なからずいるのです。ルールの変更は、個人が人生設計を立てやすくするねらいがあるのです。
 とりわけ、若い世代の意識の変化が顕著。マイナビの大学生就職意識調査(2024年4月16日付)によると、「行きたくない会社」の特徴で、2025年卒業予定の3割が、「転勤が多い」をあげています。「給料が安い」「休暇がとれない」より上位。
 大手企業では、転勤制度の見直しに着手しています。ただし、転勤制度は、長期雇用システムや安定した雇用とトレード・オフの関係。賃金や人事処遇の公平性をいかに担保するか、企業の対応や創意が試される時代となってきました。

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