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労働実務Q&Aこれで解決!

拘禁刑

Q.

 労働基準法は、その大部分の条項について、違反行為に罰則があります。罰則の内容については、第117条から121条までの条文に一括して規定。その中で最も重い罰則が、法5条の規定に違反する「強制労働の禁止」です。「第5条の規定に違反した者は、これを1年以上10年以下の懲役又は20万円以上300万円以下の罰金に処する」(117条)と定めていました。懲役と禁錮が廃止され、拘禁刑に一元化されると聞いています。この場合の懲役も拘禁刑になりますね。

A.

 従来の懲役と禁錮は、刑務作業の義務があるか否かの違い。懲役の受刑者には刑務作業が義務づけられ、禁錮の受刑者は任意でした。懲役と禁錮が拘禁刑に一元化される背景には、実態として懲役と禁錮の差がなくなっていた実情があります。禁錮の受刑者は少なく、大部分が刑務作業を任意で行っていました。拘禁刑への一元化は、2022年6月17日公布の「刑法等の一部を改正する法律」(令和4年法律第67号)によるもの。施行日は、今年(2025年)の6月1日。労働基準法の罰則も同様です。


◆懲役と禁錮の異同

 自由を剥奪する刑罰として、かつて刑法典は、懲役と禁錮の2種類を定めていました。懲役と禁錮は、いずれも刑事施設に拘置する点では共通していますが、懲役の場合は「所定の作業を行わせる」として刑務作業を課す、という相違点がありました。
 このように懲役では刑務作業が課され、禁錮では課されないのは、懲役は破廉恥な罪に対する刑であり、禁錮はそうではない罪(非破廉恥罪)に対する刑だと考えられたことに由来しているようです。禁錮が内乱罪や過失致死罪などの罪に規定されているのもこのことを示しています。
 しかし、刑務作業を苦痛としての刑罰の内容として、とくに破廉恥の象徴として課するのは妥当ではないのではないか、という有力な見解が古くからありました。現在のように価値観が多様化した社会では、破廉恥・非破廉恥というような単純なカテゴリーで犯罪を2つに分けることはとうてい不可能です。かえって裁判官の主観的な心情をおしつけることとなり、妥当ではありません。
 懲役刑を科す場合も、受刑者の中には、高齢であることや障害を有することなどにより、刑務作業を行わせることが適当とはいえない者が増加しています。受刑者の改善更生・社会復帰のためには、刑務作業よりも改善指導や教科指導などの処遇を行う方が有効な場合もあります。一方、禁錮刑には刑務作業の義務はありませんが、受刑者の申し出により刑務作業につくことが認められていました。
 以上のような問題意識の下で、令和4年の法改正により、懲役、禁錮に関する規定が廃止され、両者は拘禁刑に一元化されることになりました。
 施行日は、2025年6月1日から。なお、従来の懲役・禁錮の受刑者も、改正刑法の施行に伴って拘禁刑へと移行します。


◆拘禁刑への一元化

 拘禁刑は、受刑者を刑事施設に拘置してその自由を剥奪したうえで、その改善更生・社会復帰を図るために必要な作業を行わせ、また、必要な指導を行うものです(改正刑法12条2項、3項)。これは、作業及び指導を常に義務づけるのではなく、個々の受刑者の特性に応じて、その改善更生を図るために必要なかたちで、作業と指導とを効果的に組み合わせた処遇を行うことを可能とするものです。拘禁刑では、刑務作業の要否は、受刑者ごとに決定されます。
 拘禁刑によって従来よりも柔軟な処遇を可能とし、受刑者の特性に応じた更生プログラムを実施して再犯予防を図りたいという意図を十分感じとることができます。国家が、その権力によって個人に苦痛という害悪を加えるのは、それによって犯罪の防止という効果がある場合に限られなければならない。単なる応報刑ではなく、抑止刑論になじむ考え方といえます。

 

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