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退職金の減額・不支給条項

Q.

 懲戒解雇は、制裁としての懲戒処分の極刑であり、使用者の一方的意思表示により労働者を企業外に放逐する処分。多くの企業では、就業規則等において、「懲戒解雇された者に対しては、退職金を不支給または減額する」という条項を置いています。老後に必要となる生活資金として2000万円は必要ということが話題になりましたが、退職金がゼロになると老後のライフプランに与える影響は小さくありません。この場合の法的論点や判例はどうなっていますか。

A.

 退職金に関する事項は、就業規則の相対的必要記載事項であり(労基法89条3号の2)、就業規則等で支払条件が明確に定められていれば、「労働の対償」としての賃金に該当し(同法11条)、退職金請求権は法的保護を受けます。退職金には、賃金後払い的性格や功労報償的性格があるとされ、懲戒解雇の場合の退職金の減額・不支給条項の合理性や適法性と適用の当否が争われるケースがよくあります。学説と判例を概観してみましょう。


◆退職金の減額・不支給条項の適法性

 退職金の減額・不支給条項の適法性は、退職金の法的性格や退職金の発生時期をどう捉えるかによって、見解が分かれます。
 退職金は賃金の後払いであり、勤続年数ごとに具体的請求権として確定していくという考え方によると、減額・不支給は労基法24条の賃金全額払いの原則に反し、無効であると主張します。
 退職金の功労報償的性格を重視し、退職時に初めて債権が確定するという考え方によれば、減額・不支給も法令ないしは公序良俗(民法90条)に反しない限り有効であるとします。
 判例や学説の多くは後者の立場です。ただし、その適用にあたっては、永年勤続の功を抹消(全額不支給の場合)ないしは減殺(一部不支給の場合)するほどの不信行為があった場合に限られる、という限定解釈を行っています。


◆小田急電鉄事件(東京高判平15・12・11)

 鉄道会社の従業員が、休日に他社の鉄道の車内において、痴漢行為(迷惑防止条例違反)を行い逮捕、起訴され、有罪判決を受けた。会社は従業員を懲戒解雇し、就業規則の規定により退職金を不支給とする。一審は懲戒解雇および退職金の不支給を有効と判断したため、本人が高裁へ控訴した事案。
 東京高裁は、懲戒解雇を有効としました。退職金の不支給については限定解釈を加えたうえで、「業務上の横領や背任など、会社に対する直接の背信行為とはいえない職務外の非違行為である場合には、それが会社の名誉信用を著しく害し、会社に無視しえないような現実的損害を生じさせるなど、上記のような犯罪行為に匹敵するような強度な背信性を有することが必要」と判断。結論として、支給額の3割に相当する額の支払いを認めました。
 本件行為が業務に関連性があるか否かについて、地裁と高裁で解釈が別れました。


◆宮城県・県教委事件(最判令5・6・27)

 30年間誠実に働いてきた公立高校の教員が、酒気帯び運転で物損事故を起こし、逮捕され罰金刑に。県教委は、懲戒免職処分とし、退職手当に関する条例にもとづき退職金は全額不支給。二審の高裁は、「大幅な減額はやむを得ない」としつつ、教員の勤務状況や反省の深さを重視して、退職金の3割相当を支給すべしとした。双方がこれを不服として最高裁へ上告した事案。
 最高裁は、「県教委が、本件非違行為の前年、教職員による飲酒運転が相次いでいたことを受けて、複数回にわたり服務規律の確保を求める旨の通知等を発するなどし、飲酒運転に対する懲戒処分につきより厳格に対応するなどといった注意喚起をしていたとの事情」や生徒や保護者への影響などの諸事情を重視。全額不支給は妥当と判断しました。
 本判決の射程が、全公務員にも及ぶのか、民間の懲戒解雇事案にも影響を与えるのか、注目されます。

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