雇用延長への対応
Q. 定年延長など、60歳以降の雇用延長を法律で義務づけるかどうかが議論されていると聞いています。当社では、正直60歳定年までの雇用維持が精一杯で、雇用延長すると組織の新陳代謝も進まず、人件費の増加も気になるところです。どのように対応すればよいのか迷っています。 |
A. 会社の業績や人件費支払能力、企業風土などを総合的に勘案して決めるしかありません。ただ、高齢者雇用は避けることのできない課題。賃金レベルを60歳以降減額することは当然として、年齢に関係なく、企業への貢献度に応じた賃金・人事処遇制度の構築が不可欠です。 |
◆少子・高齢化社会の雇用
今、日本は世界のどの国も経験したことのない超高齢社会へ突入しているといわれています。出生率もずっと落ちこんでいますから、少子・高齢化の進展により今後労働力不足が懸念され、60歳台前半層への雇用延長が注目を集めているのです。
雇用延長は、厚生年金満額支給年齢の引き上げにも関連しています。すなわち、「特別支給の老齢厚生年金の定額部分」の支給開始年齢は、2001年から3年に1歳ずつ段階的に引き上げられ、2013年4月1日には65歳になります。また、2013年からは、「報酬比例相当部分の老齢厚生年金」の支給開始年齢も60歳から段階的に65歳に引き上げられることが決まっています。
厚生年金の満額支給年齢の引き上げで生じる「収入のない期間」を、雇用延長の義務化で埋めようというのがその狙いなのです。
◆雇用延長の形態
60歳以降の雇用延長の形態については、1.再雇用制度、2.勤務延長制度、3.定年延長の3つのパターンが考えられます。
「再雇用制度」は、60歳定年で一旦退職し、再度雇用契約を結ぶ制度です。定年時に退職金を支払い、嘱託として一年契約で再雇用するというのが多いようです。経営環境への柔軟な対応を可能にする制度といえます。
「勤務延長制度」は、60歳定年後も退職することなく引き続き勤務を継続する制度です。大企業では少なく、中小企業で利用されています。再雇用制度に比べ、雇用の安定度が若干高まっています。
「定年延長」は、定年年齢を引き上げて61歳以上とするものです。65歳にいっきに延ばすこともあるでしょうし、段階的に行うこともあるでしょう。従業員にとっては安心感は高まります。使用者サイドからは賃金原資の増加が問題です。60歳時の賃金レベルや賃金体系をその後も引きずれば、人件費は大きく膨らむからです。
◆雇用延長と賃金・処遇制度
雇用延長義務化への法制度が定まっていない現段階では、個々の企業が、企業業績、人件費支払能力、企業風土、従業員のニーズなど内部環境を見定めて、進むべき方向性やスケジュールを決定するしかありません。
定年延長を選択する場合、賃金レベルを60歳以降減額するのは当然の措置です。企業の人件費負担の軽減を図るために、国の公的給付の活用も検討すべきでしょう。賃金を下げることにより、在職老齢年金や高年齢雇用継続給付を受給することもでき、従業員の手取り額が増えるからです。
賃金・人事制度の観点からは、年齢を気にすることなく、職務のレベルや価値、業績や成果に見合った処遇制度を確立することが先決です。企業への貢献度に応じたメリハリのある処遇を行い、年齢概念を払拭していく方向で再構築しないと、従業員の活力は維持されないからです。
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