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労働実務Q&Aこれで解決!

降格

Q.

当社では約2年かけて新しい人事制度を構築し、このたび導入・本格稼動の時期を迎えています。新しい制度では、従来の昇格制度の年功的運用を厳しく排除。その典型が「降格もあり」という制度です。降格を設ける企業は少ないようですが、留意すべきことがあれば教えて下さい。

A.

職能資格制度において資格(等級)を引き下げる措置としての降格を取り入れる企業は、今後増えていくと予想されます。その場合昇格と同じように、その要件と手続を事前に明確にしておくことがフェアーな態度といえます。新しい人事制度の解説書やマニュアル、就業規則などに明記しておくのがよいでしょう。


◆「職能」概念の再定義

 多くの企業で採用されている職能資格制度。ここでいう「職能」とは職務遂行能力のことです。成果や業績が強調される今日では、この職能を保有能力ではなく、発揮能力あるいは職務の遂行過程で顕在化した能力と捉える考え方が有力になっています。この職務遂行能力の発揮度や伸長度に応じて昇格・降格を行おうというのです。昇格があれば、当然降格もあり得ます。現在格付けされている職能資格の基準に照らし、職務遂行能力を発揮することができなくなる事態は避けがたいのです。能力評価基準として「人の顕在化した能力や行動」に視点をあてたコンピテンシーが注目を集めているのも、これらの考え方の延長線上にあります。
 というより、本来職能概念は「業績として顕在化され」ることを指向していました。1968年に発表された「日経連能力主義管理研究会報告」における能力概念は、今日のコンピテンシーの定義と大きな違いはなく、次のように述べています。
 「能力とは企業における構成員として、企業目的のために貢献する職務遂行能力であり、業績として顕在化されなければならない。能力は職務に対応して要求される個別的なものであるが、それは一般には体力・適性・知識・経験・性格・意欲の要素からなりたつ。それらはいずれも量・質ともに努力、環境により変化する性質をもつ。開発の可能性をもつとともに退歩のおそれも有し、流動的、相対的なものである」


◆降格と裁判例

 職位や役職を引き下げるいわゆる降職の事例で、裁判例は、降格は昇進・昇格と同様に人事権にもとづき裁量的に行うことができ、就業規則に根拠規定がなくても人事権の行使として可能である、と判断しています(東京地決 平2・4・27)。管理職のポストには定員があり、仕事にも適任・不適任がある以上、その人選には使用者の裁量の幅が認められるべきだというのです。組織的労働を内容とする労働関係においては、労働契約において、個々の労働者を企業組織の中に位置づけ、役割を定める権限、すなわち使用者の人事権が予定されていると考えるのです。
 これに対し、職位の変更を伴わない職能資格の引下げ措置としての降格は、「資格制度における資格や等級を労働者の職務内容を変更することなく引き下げることは、同じ職務であるのに賃金を引き下げる措置であり、労働者との合意等により、契約内容を変更する場合以外は、就業規則の明確な根拠と相当の理由がなければなしえるものではない」としています(東京地決 平8・12・11)。
 降格があることが事前に予定されていないタイプの事例の判断です。降格という取扱いがありうることが何らかの規定により事前に明らかにされていれば、合意もしくは黙示の合意があったものと解されるでしょう。

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