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労働実務Q&Aこれで解決!

懲戒解雇と解雇予告除外認定

Q.

税務署の税務調査が端緒となって、長年にわたって経理責任者であった従業員の多額の横領(1億円を越えると推測)が発覚し、本人もほぼ事実を認めています。告訴のため警察に相談したところ、多くの帳票類が改ざん、消失しており、立件(訴追)は極めて困難とのことでした。この従業員を懲戒解雇処分とし、直ちに解雇することができますか。

A.

懲戒解雇を含む懲戒処分をするためには、その事由と方法が就業規則に明定されていることが必要です。横領は刑法犯であり、職場規律違反として就業規則に列挙されているのが通常ですから、それにもとづいて懲戒解雇処分にすることはできます。ただ、即日解雇をするためには、「労働者の責に帰すべき事由」について所轄労働基準監督署長に「解雇予告除外認定申請」をして、その認定を受けなければなりません。


◆懲戒解雇の法規制

 懲戒解雇は、制裁としての懲戒処分のいわば極刑であり、使用者の一方的意思表示により労働者を企業外に放逐する処分です。
 このような懲戒権の根拠として、判例は、労働者は労働契約を締結することにより企業秩序遵守義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができる、という理論構成をとっています。
 懲戒解雇が普通の解雇と異なるところは、1.解雇予告や予告手当の支払いもせずに即時に行えること、2.退職金の全額または一部を支給しないこと、の2点です。
 しかし、懲戒解雇は懲戒処分や解雇に関する法規制を当然受けますので、注意する必要があります。
 まず、懲戒処分を設けようとする場合には、使用者は、その種類および程度に関する事項を就業規則で定めなくてはなりません(労基法89条9号)。就業規則に懲戒制度を定め、その事由と手続を明定することによって、使用者は適法に懲戒権を行使しうるのです。


◆懲戒解雇と労基署長の認定

 使用者は、労働者を解雇しようとする場合には、労働者の責に帰すべき事由にもとづいて解雇する場合を除き、少なくとも30日前に予告するか、30日分の平均賃金を支払わなければなりません。また、労働者の責に帰すべき事由にもとづいて解雇する場合には、所轄労働基準監督署長から解雇予告除外の認定を受けることを条件に、解雇予告義務を免除しています(同法20条)。ですから、懲戒解雇であれば無条件に解雇予告を要さずというものではなく、予告制度を無視して即時解雇をしたら違法無効となるのです。
 この場合の「労働者の責に帰すべき事由」の認定基準について、行政解釈は限定的で厳格な考え方を示しています。すなわち、1.極めて軽微なものを除き職場内での盗取、横領、傷害など刑法犯に該当する行為があったとき、2.賭博、風紀紊乱等により職場規律を乱した場合、3.採用条件の要素となるような経歴の詐称、4.他事業への転職、5.2週間以上正当な理由がなく無断欠勤し、出勤の催促に応じない場合、といった労働者を保護するに値しないほどの重大または悪質な義務違反ないし背信行為が労働者に存する場合としています。
 つまり、企業内における懲戒解雇の事由と労基法20条の解雇予告除外の認定は同一のものではありません。除外認定には証拠類も必要ですし、短時間で結論が出るものではありません。したがって、たとえ労基署長の除外認定が得られなくても懲戒解雇は行えますが、あくまでも、30日前の予告か30日分の予告手当(泥棒に追銭となりますが)の支払いが条件となります。

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