不当労働行為
Q. 友人の会社では、労働組合の次期委員長と目されているやり手の組合役員が、定期異動で遠隔地の支店に転勤になりました。組合は、不当労働行為の不利益取扱いの疑いが濃厚であるとして、労働委員会に救済の申立てを検討しているそうです。この不当労働行為とはどのようなものをいうのですか。不利益取扱いであるかどうかは微妙な判断となりますね。 |
A. 不当労働行為とは、憲法28条により保障された労働基本権を擁護するための制度で、労働組合法7条各号で禁じられたものをいいます。不当労働行為には、①不利益扱い、②団体交渉拒否、③支配介入、という3つの類型があります。不利益扱いをしたといえるかどうかの審理判断の中心論点は、「不当労働行為の意思」の存在でデリケートな問題です。 |
◆不当労働行為救済制度
不当労働行為の基本類型は、不利益取扱い、団体交渉拒否、支配介入の3種類です。使用者は、具体的にどんな行為をしてはいけないのでしょうか。
まず第1番目は、不利益取扱い(および黄犬契約)。労働組合の組合員であることもしくは労働組合の正当な行為をしたことを理由として、組合員を解雇したり、その他不利益な取扱いをしてはいけないのです。黄犬契約とは、労働組合への不参加や脱退を雇用条件とすることをいいます。労働委員会に不当労働行為の申立てをするなど手続きに関与したことを理由として不利益な取扱いをしたことも含まれます。
2番目が団体交渉拒否。団体交渉を組合から要求されたとき、正当な理由がない限り、拒否してはいけないのです。この団体交渉拒否には、交渉の機会をもつこと自体の拒否に加え、誠実に団体交渉を行わないことも含みます。
3番目は支配介入。労働組合の結成もしくは運営に対し支配または介入すること、または組合の運営に経理上の援助を与えることを禁じています。労働組合をコントロールしようとしてはいけないということで、支配介入に当る行為は広範囲になります。
では、以上のような行為が現実にんされた場合にどうなるのか。労働組合法27条は、労働委員会による救済手続を定めています。
たとえば、労働組合の活動をしたことを理由として差別された組合員や労働組合が、管轄の労働委員会に赴き、救済を求めて申立てを行います。事務局は、救済を求めうるための手続きをその労働組合が経ているかどうかをまず審査し、問題がなければ申立てを受入れ、調査を開始します。その後、両当事者を呼び出して審問が行われ、不当労働行為の正否を審査。不当労働行為の成立が認定されると、労働委員会は、使用者に対し救済命令を発します。
実際には、ほとんどの案件で和解が試みられ、和解ができなかった場合に命令が出されています。
◆不利益扱いと不当労働行為
おたずねのような遠隔地への配置転換は、人事に関する不利益扱いの典型といえるでしょう。
問題となるのは、当該不利益扱いが組合員であること、また労働組合の正当な行為をしたこと「の故をもって」なされたといえるかどうか、という点です。これが「不当労働行為の意思」であり、その存否が問われます。
しかし、使用者の心情や内心の意思については、立証や認定が困難であり、種々の状況証拠から推認せざるを得ません。実務では、日頃から労働組合を嫌悪しているとみなされる行動をとっている使用者が、不利益扱いを行った場合は、「故を持って」であると推認する。ただし、当該取扱いを正当化する理由が使用者の側で立証されれば、履る、という方法がとられているようです。
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