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労働実務Q&Aこれで解決!

予告を欠く解雇

Q.

労基法20条によると、たとえ企業で懲戒解雇と処理されても、労働基準監督署長の解雇予告除外認定が得られないときは、結局のところ、解雇予告をするか、解雇予告手当を支払って解雇する必要があります。使用者が本条に違反して、30日前の予告または30日分の予告手当の支払いをしないでなされた解雇の法的効力は、どう考えたらよいですか。

A.

本条違反の使用者は、刑事上、6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます(119条1号)。また裁判所は、予告手当と同額の付加金の支払いを命じることができます(114条)。本条違反の解雇の民事上の効力については、学説、裁判例が分かれています。行政解釈や最高裁判例は、相対的無効説の立場を明らかにしています。


◆予告義務違反の解雇の民事上の効力

 労基法20条に定められた手続に違反して解雇の予告をせず、予告手当も支払わないで労働者を解雇した場合の民事上の効力如何。大別して4つの見解があります。
 1つめは、絶対的無効説。労基法20条は強行規定であり、常に無効であると説きます。ただし、予告手当およびそれと同額の付加金の請求をなしうるとする規定(114条)との矛盾を指摘されています。
 2つめが、有効説。労基法20条は取締規定にすぎないとし、解雇そのものは有効と主張。これに対しては、解雇予告規定だけがなぜ強行規定でないのか釈然としません。
 3つめの相対的無効説は、行政解釈(昭24.5.13基収第1483号)および最高裁の見解(最判昭35.3.11 細谷服装事件)。すなわち、予告期間も置かず予告手当の支払いもしないでした解雇の通知は、即時解雇としては効力が生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でないかぎり、通知後30日の期間を経過するか、または通知の後に予告手当の支払いをしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力が生じる、というもの。使用者の意思と労働者保護の調和、無効行為の転換理論などを論拠としています。ただし、この説には、解雇の効力を使用者の解雇後の行動にかかわらしめる結果となり、また労働者が解雇の効力を争わず予告手当の請求をしたら請求棄却になるという難点があります。
 そこで4つめの選択権説。労基法20条が30日前の予告か予告手当を支払って即日に解雇かという選択権を使用者に与えていることに注目して、解雇の無効を主張するか予告手当の支払いを請求するかの選択権が労働者に移る、という見解。個人的には、結果的妥当性において、この説に魅力を感じるところですが‥‥。


◆行政解釈の立場における民事上の法律関係

 会社と労働者との間で解雇予告除外事由の存否が争われている場合で、使用者が解雇予告事由があるとして即時解雇を行ったが、労基署長に除外認定申請をしていないときの法律関係を、行政解釈の立場から整理してみましょう。
 まず、使用者が即時解雇に固執しない場合。所定の予告手当を支払うか、30日経過した時点で解雇は有効になります。それまでの間、労働関係は有効に存続。そのため、労働者は労務の提供が必要で、使用者は賃金支払い義務があります。使用者の都合で休業させた場合は、労基法26条の休業手当の支払いが必要。一方、労働者は、解雇予告手当の請求権を有しないかわりに、その間の賃金または休業手当の請求権を有すると考えられます。
 使用者が即時解雇に固執する場合。原則として、即時解雇としては無効です。ただし、解雇の民事上の効力については、客観的に解雇予告除外事由が存するかどうかによって判断されますので、労基法20条に違反する解雇であっても、最終的には裁判所により有効と判断される場合があります。

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