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労働実務Q&Aこれで解決!

大震災と労災保険

Q.

業務上災害に該当するかどうかは、「業務起因性」および「業務遂行性」という基準で判断されます。天災地変による災害は、原則として業務起因性が認められず、したがって業務災害とはならない、と聞いたことがあります。このたびの東日本大震災(2011年3月11日発生)により仕事中ケガをしたり亡くなった場合、労災保険が適用されますか。

A.

厚生労働省は、3月11日付けで業務上外の基本的考え方について通達を出し、3月24日には大震災と「労災保険Q&A」を作成し、周知を徹底。今回、仕事中に地震や津波に遭遇して、ケガをしたり死亡した場合、通常、業務災害として労災保険給付を受けることができる、と明言しました。業務起因性がないとの予断をもたぬよう注意を促しています。


◆天災地変による災害と業務上外認定

 「業務起因性」とは、業務と傷病との間の因果関係をいい、「業務遂行性」とは、労働者が労働契約にもとづいて事業主の支配下にある状態をいいます。業務災害の認定は、業務起因性があるか否かがポイントになりますが、その前提として業務遂行性が認められる必要があるのです。
 天災地変による災害は、それ自体としては業務と無関係な自然現象です。つまり、天災地変は業務遂行中であるか否かにかかわらず発生しますから、原則として、業務起因性が認められないのです。
 ただし、業務行為や事業場施設の欠陥等が共働原因となって災害を発生させた場合は、状況により業務上となり得ます。たとえば、天災地変による災害を被りやすい業務上の事情があり、その事情と相まって発生したものと認められるケース。この場合、業務に伴う危険が現実化して発生したものとして、業務起因性を認めることができるのです。
 今回の厚労省通達は、平成7年1月30日付け、阪神大震災における業務上の考え方を維持しています(平23.3.11 基労補発0311第9号)。すなわち、「天災地変に係る業務上の考え方については、従来より被災労働者が、作業方法、作業環境、事業場施設の状況等からみて危険環境下にあることにより被災したものと認められる場合には、業務上の災害として取り扱」う、という基本的スタンスを示しています(昭49.10.25 基収第2950号)


◆東日本大震災と「労災保険Q&A」

 平成23年3月24日付けで厚労省が作成した、東日本大震災と「労災保険Q&A」は、通達等より一歩踏み込んだ印象です。震災による損害を広く労災保険で補填する、という政策的価値判断がなされたのではないでしょうか。以下の事案について、労災保険の適用を認め、保険給付ができるとしています。
 ①仕事中に地震や津波に遭い、ケガをしたり死亡した場合。地震によって建物が倒壊したり、津波にのみ込まれるという危険な環境下で仕事をしていたと認められるため。 
 ②船舶で仕事中に津波に巻き込まれ被災した船員。船員も労災保険法上の労働者です。
 ③避難行為中にケガをしたり死亡したとき。仕事中に地震があり避難することは、仕事に附随する行為とみられるからです。
 ④仕事中に津波にあって未だ行方不明のケース。本来は不明になったときから1年後に死亡とみなされた場合に請求できますが、今回は特例として、1年以内でも認定できるよう検討中。
 ⑤被災地へ出張用務中のケガや死亡。出張の開始から終了まで業務遂行性があるため。
 ⑥業界団体からの要請により従業員を被災地へ派遣させた場合。現地と赴任途上も含みます。
 ⑦休憩時間中に被災したとき。事業場の管理する施設にいれば危険な環境下にあるため。
 ⑧外回りの営業に出ていて被災した場合。事業場の外も危険な環境で仕事をしていたと認められます。

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