労組法上の労働者の範囲
Q. 複数の音楽教室を運営している会社と業務委託契約を締結し、ピアノの講師をしています。契約は1年更新で、個人事業者として、毎年確定申告をしています。報酬は一定の計算方式にもとづき会社から支給されますが、最近、一方的に切り下げられました。10人に満たない講師が労働組合を結成し、会社と諸条件について団体交渉をすることができますか。 |
A. 労働組合法(労組法)は、労働基準法(労基法)に比べ、労働者の定義を広く定めています。会社との契約の名称がどうであれ、実際の働き方が労組法で定める「労働者」と認定されれば、労働組合の結成や団体交渉をすることも可能と考えられます。最高裁は、今年の4月に、個人事業者も労組法上の労働者にあたる、とする判決を言い渡しています。 |
◆労働組合法と労働基準法の「労働者」
労組法において「労働組合」と認められるためには、まず「労働者」が構成主体となっていなければなりません。労組法は、「労働者」を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準じる収入によって生活する者」と規定しています(労組法3条)。
一方、労基法は、「労働者」について、「職業の種類を問わず、事業‥‥に使用される者で、賃金を支払われる者」(労基法9条)と定義しています。
労組法には「使用される」という言葉がなく、「賃金などで生活する人」全般を労働者としています。つまり、「使用従属関係」の有無を基準とする労基法とは異なり、給料生活者である限り広く労働者性を認めようとしているのです。というのも、労組法は、会社との交渉力が弱い人に団体交渉権を付与することを目的としています。したがって、労働者の範囲も、労使対等化のための団体交渉を保障すべき者はいかなる人たちか、という観点から判断すべきと考えるからです。
最高裁は、劇場(財団)と出演契約を締結して公演に出演していたオペラ合唱団員、および親会社製品の修理補修を業とする会社と業務委託契約を締結して修理補修業務を行っていた機器修理技術者のそれぞれについて、労組法上の労働者性を肯定しました。(新国立劇場事件・INAXメンテナンス事件 最判平23.4.12)
◆労組法上の労働者の判断要素
この2判決は、労組法上の労働者性をどのような基準(要素)によって判断しているのでしょうか。次のような5つの要素を考慮しているものと考えられます。
① 事業組織への組み入れ
労務提供者が、事業遂行に不可欠な労働力として会社の組織に組み入れられていたこと。
② 契約内容の一方的決定
会社が契約内容を一方的に決定していたこと。
③ 報酬の労務対価性
労務提供者の受ける報酬が労務の提供に対する対価としての性格を有すること。
④ 諾否の自由の欠如
各当事者の認識や契約の実際の運用においては、労務提供者は会社の依頼に応ずべき関係にあったこと。
⑤ 指揮監督関係
労務提供者が、会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行い、かつ業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたこと。
このように、労組法上の労働者性を判断する際に、契約の形式や文言ではなく、契約関係の実態を重視した判断をしています。
本事案についても、5つの判断要素に照らして、労組法上の労働者性が判断されます。労働者性が肯定されれば、労務提供者は労働組合を結成して団体交渉を会社に求めることができ、会社は交渉に応じる義務を負うことになります。
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