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労働実務Q&Aこれで解決!

賃金の控除

Q.

正社員になって半年。あらためて給与明細書を見て、総支給額と手取り額との差にタメ息がでるばかり‥‥。総支給額からは、健康保険、厚生年金、雇用保険の社会保険料が差し引かれ、所得税や住民税などの税金や会社寮費が天引きされています。労基法には、賃金支払い方法についての規制があると聞いていますが、賃金からの多くの控除は何を根拠にしているのですか。

A.

確かに労基法24条は、賃金全額払いの原則を定めていますが、そのただし書きで、法令に別段の定めがある場合と、労使の協定がある場合の2つの例外を認めています。その例外が広範にわたるところに、サラリーマンの悲哀の根源があるのです。逆にいうと、法令や労使協定の根拠もなく給与から天引きをすると、労基法違反として罰せられることになります。


◆賃金全額払いの原則と例外

 労働の対償としての賃金は、労働者と家族にとって唯一の生活の糧です。そのために労基法は、賃金の「全額を支払わなければならない」と定めています。(24条1項)。賃金から貯蓄金や貸付金などの名目でその一部を控除することを禁止するための規定です。
 ただし、社会保険料の控除や所得税の源泉徴収は公益上の必要性があり(異論もありますが)、寮・社宅料や購入物品の代金等事理明白なものについては、例外を認めることが手続の簡素化にもなるし、実情に沿うといえます。そこで、法令に別段の定めがある場合、または労使の協定がある場合の2つの例外に限って、一部控除を認めているのです。
 ここでいう賃金の「控除」とは、履行期の到来している賃金債権の一部を差し引いて支払わないことをいいます。


◆法令に別段の定めがある場合

 賃金から一部控除を認めた法令には、給与所得に対する所得税等の源泉徴収を認める所得税法183条、および地方税法321条の5の規定。社会保険料の控除を認める健康保険法167条、厚生年金保険法84条、労働保険料徴収法31条などの規定があります。減給制裁の制限を定めている労基法91条も、同じく一部控除を認めた法令と解されています。


◆労使の書面協定がある場合

 以上の法令を根拠とする場合とは別に、一定の協定を結ぶことにより控除ができる場合があります。すなわち、事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその労働組合、労働組合がない場合または労働組合があっても労働者の過半数がこれに加入していない場合には事業場の労働者の過半数を代表する者との間で、書面による協定を締結します。これにより、税金や社会保険料以外でも、賃金の一部を控除することができるのです。
 行政解釈においても、「購買代金、社宅、寮その他の福利、厚生施設の費用、社内預金、組合費等、事理明白なものについてのみ、法第36条の時間外労働と同様の労使の協定によって賃金から控除することを認める趣旨」(昭27・9・20 基発675号)であるとしています。
 ただし、この書面協定は、いわゆる「36協定」とは異なり、行政官庁への届出は不要です。
 また、「協定書の様式は任意であるが、少なくとも、①控除の対象となる具体的な項目、②右の各項目別に定める控除を行う賃金支払期日を記載する」(前掲通達)ものとされているので、留意が必要です。
 労使協定は、使用者が賃金の一部控除を適法に行うための要件です。つまり、刑事上の免罰的効果をもつにすぎません。ですから、労働者との間で民事上の効力を発生させるためには、労働契約または就業規則、賃金規程等により、賃金控除ができる旨を定める必要があります。

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