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労働実務Q&Aこれで解決!

法令遵守と企業の責任

Q.

企業法務部というような専門部署をもてない中小企業の経営者です。企業不祥事を引き起こすと、取り返しのつかない大きなダメージを受けることを、数々の事例から学んできました。企業には、社会的責任または法的責任、道義的責任など、様々な責任があります。リスク管理の観点から、これらの責任を整理し、どう対応すべきか、ご教示いただけませんか。

A.

大きな括りでいうと、まず法律上の責任と法律外の責任に分けられます。法律上の責任は、さらに民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任に3区分できます。社会的責任も道義的責任も、いずれも法律外の責任。ただし、企業は法令の遵守だけでなく、あらゆる社会的規範を尊重し、高い倫理基準を設定したコンプライアンス経営を志向し、実践すべきだ、と考えます。


◆法律上の責任と責任形態

 法律上の責任または法的責任とは、法律にもとづき一定の不利益または制裁を課されることいいます。法律上の責任と法律外の責任を区別するメルクマール(指標)はだた1つ。法律に規定されているかどうか。言葉を換えると、国家による強制力を受けるか否か、ということに収斂するのです。
 法律上の責任は、責任形態によって分類できます。民事上の責任、刑事上の責任、行政上の責任の3区分です。これは法的効果の違い、つまりペナルティーの種別による区分といっていいでしょう。
 その1。民事上の責任。取引関係にある当事者間の約束事によって生ずる債務不履行責任(民法415号)と、第三者どうしの不法行為によって生ずる損害賠償責任(民法709条、715条)の2系統に分けられます。
 その2。刑事上の責任。刑法やあまたある特別法により刑罰を科せられることです。私人間の紛争解決とは別に、国家が許せないと判断し、刑罰を発動させます。
 その3。行政上の責任。行政法規の実効性を担保することを目的に、行政官庁から免許停止や取消などの行政処分を受けることをいいます。
 人事・労務の分野に大きくかかわっている労働基準法は、民事上(強行法規、補充的効力、13条)も刑事上(罰則規定あり、117条~121条)も強い効力をもち、行政上も労働基準監督制度を備えた特異な法律です。
 企業は法律によって法人格を付与されたもの。法令違反は、言語道断です。


◆法律外の責任とコンプライアンス経営

 法律外の責任にも微妙なニュアンスの違いがあります。企業の社会的責任(CSR)とは、企業が利益を追求するだけでなく、顧客、株主、従業員あるいは社会全体などのステークホルダー(利害関係者)に対し、価値を創出し、提供する活動をいいます。道義的責任は、道徳や倫理に反しないことです。いずれも、法律上の責任とは異なり、誰からも強制的に責任を負わされることはありません。 
 世上では、法律上の責任と法律外の責任の違いを意識し、戦略的企業法務に活用すべきだ、という考え方もあります。
 しかし、企業不祥事をなくし、企業の存続・発展を望むのであれば、何よりもコンプライアンス経営がおすすめです。コンプライアンス経営とは、法令を遵守するだけでなく、倫理綱領や社会規範などにもとづく企業倫理の確立と実践を目的とした経営のことです。
 企業不祥事がなくならないのは、人類の幸福や社会へ貢献するために考案された企業や市場が、本来の目的を忘れ、利益至上主義に陥ったためではないでしょうか。企業は社会的公器としての誇り高き使命を自覚すべきです。日本資本主義の父と呼ばれた渋沢栄一さんは「論語と算盤」を著し、利益追求と道徳の合一を説きました。企業の持続的発展の要は、「責任」にほかならないのです。

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