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労働実務Q&Aこれで解決!

仕事観

Q.

東日本大震災後実施されたアンケート調査結果によると、多くの日本人の仕事観に変化が起こっているとのこと。安心・安全に加えて、家族・家庭への強い志向がみられ、仕事の内容に関しては、他人や社会への貢献と自己実現が重視されるようになったとか。社会性を帯びた欲求と個人的欲求の共存をどう思われますか。また、企業はどう対応すべきですか。

A.

日本の仕事に対する伝統的な考え方への原点回帰の現象とも受けとれます。お金を稼ぐためだけでなく、他人や社会に貢献できる仕事をしたい。同時に、仕事の場での自己実現を通して働きがいや生きがいを追い求めたいという願望が顕在化したものと考えられます。個人の働き方や仕事観、会社の社会的使命などを見直し、再考する契機にしてはいかがでしょう。


◆利他の心と伝統的仕事観

 人は「なぜ働くのか」「何のために働くのか」。食べるために働く、生活の糧を得るために働く、というのがほぼ異論のない回答でしょう。これは大事なことです。多くの人は、生まれながらにして働かざるを得ない環境に置かれているのです。人間以外の生物界においても然り。まさに自然の摂理です。
 ただ、日本では、仕事を通して世の中の発展に貢献したいという考え方が根強くあります。「世のため、人のため」に尽くすという「利他」の心にもとづく仕事観です。
 もともと大乗仏教の根本精神は、「自利利他」にあります。自らの利益を計るのが自利。他に善かれかしという慈悲の心が利他。山の中に閉じこもって自らの悟りを開くだけでなく、悩んでいる民衆の中へ入って人を救え、という教えです。利他行の方が強調されます。
 つまり、仕事を通じて、自分のためだけでなく、家族や他人、ひろく社会へ貢献したいという仕事観は、日本の伝統的な価値観なのです。


◆自己実現欲求と社会的評価

 一方、自己実現は実に多義的です。通常は、仕事の面白さ、道を究める、可能性の追求などとされ、他人や世間からの評価は関係ないとされています。 
 私が理解している自己実現とは、自分の好きなことをやって、それで生活が成り立ち、それが他人から高く評価されること。社会的評価を伴っています(竹内均さんの見解)。人間が渇望する性情としての他者からの社会的承認(同時に自己重要感を充足させる)抜きで、仕事の面白さ、やりがいや達成感はあり得ないと考えるからです。
 老婆心ながら‥‥。好きな仕事に就けるのは、稀有のこと。人生はそう長くないので、めぐりあったものを成就しきるという覚悟が必要です。今の仕事を「好きになる」。これが唯一の方法論。「天職」とは出会うものではなく、自ら作り出すものなのです。こうして、社会性を帯びた欲求と自己実現欲求は、私の中では違和感なく、結びつけることができます。


◆経営理念、経営哲学の共有

 企業本来の仕事である経済活動も、りっぱな利他行です。よい商品、製品や求められるサービスを供給して社会に役立つ。儲けた利益の中から税金として社会に還元する。企業は、人類を幸福に導く社会的公器としての使命を担っているのです。
 ですから、社会的貢献を通じて自己実現したいという欲求は、企業の目的(使命・存在理由)と個人の仕事観が一致した秀逸な言葉。企業として、歓迎すべき言葉です。経営理念の1つのフレーズとして活用できること請け合いです。
 経営トップは、従業員が心から共感できる経営理念や経営哲学を鮮明にし、心のベクトルを揃え、働きがいや生きがいを提供する責務があります。組織に価値観を注入し、社会的有機体、生きた生命体にすること。これが経営トップの最も重要な役割です。

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