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労働実務Q&Aこれで解決!

労働協約の成立要件

Q.

このたび労働組合の執行委員長として、はじめて労使交渉に臨みました。会社側は、賃金のベースアップのほか、降格ありの新賃金体系の導入と抱き合わせで協定書案を提示。組合としてはベアは合意できても、新賃金体系は受け入れがたい内容であり、労働協約として記名押印を留保中です。合意に達している部分についても、書面化されていない以上、労働協約としての効力は生じませんか。

A.

労働組合が使用者との団体交渉で合意に達すると、通常、労働協約を締結します。労働協約は書面に作成され、署名または記名押印されなければなりません(労組法14条)。労使間で合意された内容が書面に作成されなかった場合、労働協約の法的効力が認められるかどうか、がここで問われているのです。最高裁は、この要件を厳格に解し、書面性を欠く労働協約の法的効力を否定しています。


◆労働協約の当事者

 労働協約の成立要件の第1は、労働協約の当事者となりうる資格、いわゆる協約能力にあります。
 労働協約を締結できるのは、労働者側にあっては労働組合、使用者側にあっては使用者またはその団体です(労組法14条)。
 「労働組合」には、労組法上労働組合と認められている上部団体としての連合体も含まれ(労組法2条)、実際上も協約当事者になる場合が少なくないようです。
 未組織労働者が一時的に団結し、争議団を形成したとしても、労組法上の労働組合とは認められません。したがって、そのような争議団が団体交渉をして協定を締結しても、労働協約にはならないのです。
 「使用者」とは、個人企業であれば事業主本人、法人企業であればその法人(会社)をいいます。


◆労働協約の要式性

 労働協約の成立要件の第2は、労働協約の要式性です。
 労働協約は書面に作成され、署名または記名押印してはじめて効力を生ずることになります(労組法14条)。その趣旨は、労働協約には特別の効力(規範的効力、一般的拘束力)が与えられているので、合意の有無およびその内容を明確にさせ、後日の紛争を防止すること。
 問題は、労使間で明確に合意された内容が書面に作成されなかった場合に、労働協約の法的効力をどう見るか、という点にあります。一切の法的効力を認めない見解、規範的効力は認められないが、契約としての効力を認める見解、両方の効力を肯定する見解などがあるのです。
 判例は次のように述べています。
 「労働協約は複雑な交渉過程を経て団体交渉が最終的に妥結した事項につき締結されるものであることから、口頭による合意又は必要な様式を備えない書面による合意のままでは後日合意の有無及びその内容につき紛争が生じやすいので、その履行をめぐる不必要な紛争を防止するために、団体交渉が最終的に妥結し労働協約として結実したものであることをその存在形式自体において明示する必要がある。‥‥‥したがって、書面に作成され、かつ、両当事者がこれに署名し又は記名押印しない限り、仮に、労働組合と使用者との間に労働条件その他に関する合意が成立したとしても、これに労働協約としての規範的効力を付与することはできない」(都南自動車教習所事件 最判平13.3.13)。
 法文は明確で、異なる解釈の余地はないと断定しているような感じです(「論をまたない」という言葉も使っており、何とも印象的です)。
 したがって、録音テープ、ビデオ、DVD、FD、インターネット上のメールなど、書面に作成されていないものは、労働協約とは認められません。現実にそぐわない、具体的妥当性に疑問がある等の批判があるかもしれませんが、労使関係を安定させる機能も重要です。

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