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労働実務Q&Aこれで解決!

希望退職の募集

Q.

 会社の業績が非常に悪化しており、人件費削減のために希望退職の募集を検討中です。ただし、好条件を提示すると、有能な人材が退職してしまい、辞めてほしいと考えている人たちが残ってしまうおそれがあります。経営陣からも、「お金を払って優秀な人を辞めさせるのはNG」と釘をさされています。制度設計にあたり、年齢や適用部署を制限し、同時に、会社が承認した者に限る、という条件をつけることは、法律上問題ありませんか。

A.

 募集対象者に制限を設けたり、会社が承認した者に限るという条件を加えて希望退職を募集することは、特に問題ありません。希望退職の募集の実施について法律の制約がないからです。合意解約という形で労働者の意思を尊重しつつ、会社承認規定により業務上の必要性に応えることができるのがメリット。解雇権濫用法理や整理解雇法理など法令上の規制が厳しい中で、解雇に伴うトラブルのリスクを減少させる手段としても有効です。


◆希望退職の募集とは

 希望退職の募集とは、企業が人件費を削減するために、退職金を上乗せするなどの条件を提示して、労働者の自発的な退職の意思表示を待つ行為です。
 選択定年制や早期退職優遇制度が恒常的な人事制度として運用されるのに対し、希望退職の募集は期限を定めた時限措置として発動されます。ただ、いずれの制度も、年功賃金のもとで賃金水準が高くなっている中高年齢者の人員を削減することによって人件費コストを低減させ、年齢構成の若返りにより企業の活性化を図ることをめざしている点では共通しています。
 希望退職の募集は、「申し込みの誘引」であり、合意解約をめざす行為です。退職を強要するものではなく、提案を受入れるか否かは労働者の自由です。したがって、使用者は自由に実施することができます。
 希望退職の募集にあたっては、募集時期、募集人員、募集対象者、退職金上積みの有無などが労働者に提示されますが、法律や労働協約あるいは公序良俗に反するものでない限り、原則として使用者の裁量に委ねられているのです。


◆希望退職時の会社承認規定

 設問にあるように、残ってほしい人が退職してしまうという事態を避けるために、制度の適用を会社の承認にかからしめる条項は、法律上問題はないかどうか。
 契約は、法律上申し込みと承諾という2つの行為の意思の合致によって成立します。先に述べたように、希望退職の募集は、申し込みの誘引であって、申し込みではありません。労働者から申し込みを受けても、使用者が承諾するかどうかは自由です。自分たちが望む条件に合わない人を拒否することはできます。これが「契約の自由の原則」の一局面に他ならないからです。
 会社が承認しない場合、労働者は雇用関係を継続するか、優遇措置の適用を受けずに退職するか、選択を迫られます。これは、会社と労働者の希望が合致しないために退職しても特別の利益を受けないだけで、雇用契約継続上労働者に何らの不利益を強いるものではありません。
 最高裁は、選択定年制のケースで、退職の申し出に対し会社の承認がされなかったとしても、従業員は「特別の利益を付与されることこそないものの、本件選択定年制によらない退職を申し出るなどすることは何ら妨げられていないのであり、その退職の自由を制限させるものではない」ことを根拠にし、会社が承認をしなければ、割増退職金債権の発生をともなう退職の効果が生じる余地はないと判断しています(神奈川信用農業協同組合事件 最判平19・1・18)。

 
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