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労働実務Q&Aこれで解決!

希望者全員の雇用確保

Q.

 現在の年金制度では、平成25年度(2013年度)から公的年金の報酬比例部分の支給開始年齢が段階的に引き上げられていきます。一方、現行の継続雇用制度は、少なくない企業が対象者限定基準を設けており、基準に該当しない人は無年金・無収入となるおそれがあります。この空白期間を埋めるために法律が改正されたとか。65歳までの希望者全員の義務化となると、企業の新陳代謝の低下や人件費増が懸念され、企業は苦境に立たされるのでは…。

A.

 厳密にいうと、65歳までの希望者全員の雇用の義務化ではありません。改正法は、継続雇用制度について、定年退職者の希望どおりの労働条件で雇用契約の締結までを義務づけるものではないからです。法的には雇用契約の申込みの義務化。企業が合理的な労働条件を提示していれば、定年退職者と企業との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に継続雇用されなくとも高年齢者雇用安定法(高齢法)違反にはならないのです。


◆希望者全員が対象―その原則と例外

 今回の改正の柱は、対象者を限定できる仕組みの廃止。従来の継続雇用制度では、労使協定により対象者基準を設け、基準に該当しない場合は、制度の対象外とすることが認められていました。平成25年4月からは、希望者全員を継続雇用制度の対象とすることが必要になるのです。これが原則。
 ただし、特例が2つあります。その1は、「心身の故障のため業務に堪えられないと認められることと、勤務状況が著しく不良で引き続き従業員としての職責を果たし得ないこと等就業規則に定める解雇事由又は退職事由(年齢に係るものを除く)に該当する場合」には継続雇用しないことができます(改正法9条3項に基づく厚労大臣の「指針」)。
 その2は、改正法が施行される平成25年4月より前から、労使協定により対象者基準を設けている企業は、老齢厚生年金の受給開始年齢に到達する人を対象に、引き続き対象者基準を用いることができる経過措置が設けられたことです。


◆経過措置が認める対象者基準

 経過措置によると、継続雇用制度の対象者が労使協定の対象者基準に該当しない場合には、雇用継続期間を65歳までではなく、老齢厚生年金の受給開始年齢に到達するまでとすることができます。たとえば、平成28年3月31日までの間は、61歳未満の人については、希望者全員を対象にしなければなりませんが、61歳以上の人については基準に適合する人に限定することができるのです。
 既に労使間で締結されている労使協定にもとづく対象者基準をそのまま用いることもできますし、平成25年3月31日までなら労使間で再度労使協定を締結することにより、内容を見直すことも可能です。
 対象者基準該当性の判断時点をいつにするか。たとえば、定年時点にするのか、基準対象年齢の直前にするのか。これは労使の判断に委ねられています。
 経過措置を活用する場合は、基準の対象年齢を明確にするため就業規則の変更が必要です。

経過措置利用期間継続雇用期間
平成25年4月1日~28年3月31日61歳に達するまで
平成28年4月1日~31年3月31日62歳に達するまで
平成31年4月1日~34年3月31日63歳に達するまで
平成34年4月1日~37年3月31日64歳に達するまで

◆65歳への雇用確保と私法上の取扱い

 高齢法の雇用確保措置は義務規定(公法上の義務)ではありますが、企業に罰則はなく、60歳定年による退職が民事上無効となるわけでもありません。労働法によくみられるリーガルサンクション(法の強制方法)の多様化の一形態なのです。雇用確保制度の所管は労働基準監督署ではなく、公共職業安定所。未実施企業は、各種法令にもとづき、求人の不受理、紹介保留、助成金の不支給等の措置が講じられます。今回の改正では、一歩進んで義務違反の企業に対する公表規定が導入されました。

 
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