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労働実務Q&Aこれで解決!

第三者行為災害

Q.

 労災保険は、業務上の事由または通勤による労働者の死傷病に対して所定の給付が行われます。これらの中には、自動車で営業中に交通事故に遭ったり、コンビニの店員が深夜強盗に襲われ負傷するなど、加害者が介在する事案があります。建設会社が海外で受注した建設工事について、従業員を現地に常駐させて工事の技術指導や監督業務に当たらせていたときに、過激派テロリストに発砲されて死傷したケースについても、同様に考えていいですか。

A.

 基本的な構図は同じです。このような労災保険関係の当事者(政府、事業主、受給権者)以外の加害行為が介入して生じた災害を、労災保険では「第三者行為災害」と呼んでいます。本来は加害者に損害賠償義務があります。しかし、それを待っていては迅速な救済が期待されない場合が多いので、とりあえず労災保険が適用され、後で調整手続が行われます。なお、従業員を海外に派遣させる場合は、事前に労働基準監督署において、特別加入の手続きをとることが必要です。


◆第三者行為災害と損害賠償

 第三者行為災害においても、被災労働者は、労災保険に対して保険給付を請求することができます。同時に、その多くが民法上の不法行為(709条~)に該当しますので、被災労働者や遺族は、加害行為を行った第三者に対して民法上の損害賠償請求を行うことができます。
 しかし、同一の事由について保険給付と損害賠償の両方を受けるとすると、被災労働者は重複して損害の補填を受けることとなり、実際の損害額より多くの支払いを受けることになって不合理な結果を招きます。もともと、被災労働者の損失を補うべきは、災害の原因を作った加害者である第三者。そこで、労災保険では「求償」と「控除」という方法で、保険給付と損害賠償との調整を行っているのです。  


◆「求償」と「控除」による調整方法

 労災保険の給付と損害賠償のいずれが先に行われたかによって、取り扱いが分かれます。
 労災の保険給付が先に支払われた場合。政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得します(労災保険法12条の4第1項)。政府が直接第三者に対して、その損害賠償請求権を行使することになるのです。これを「求償」といいます。加害者である第三者が行うべき損害賠償を政府が肩代わりした形になってしまうため、政府は労災保険の給付額を第三者(交通事故の場合は保険会社など)から返してもらうことになるのです。
 損害賠償が先に支払われた場合。保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価値の限度で保険給付をしないこととされています(同条第2項)。これを「控除」といいます。損害が重複して補填されるという不合理を避ける仕組みになっているのです。
 なお、労災保険では、被災労働者に対して、保険給付のほかに「特別支給金」という給付が行われる場合があります。この特別支給金は保険給付ではなく、被災労働者の社会復帰の促進などを目的とする労働福祉事業として支給されるものですから、調整の対象とはなりません。

◆第三者行為災害の手続

 第三者行為災害について保険給付を受けようとする場合、労働基準監督署に、「第三者行為災害届」を提出することが必要です。また「念書」や「交通事故証明書」を添付しなければならない場合もあります。いずれも、重複して損害の補填がされないよう調整を図るための手段であり、迅速な救済を図るための手続なのです。

 
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