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労働実務Q&Aこれで解決!

業務命令の根拠と限界

Q.

 このたび取締役兼業務部長という大役を拝命しました。約20人の部下を指揮命令し業務を遂行する職制の地位に就いたことに大きな責任を感じると同時に、部下からの信頼を得なければならないと肝に銘じています。業務命令には、配転命令、出向命令、時間外労働命令あるいは社員研修への参加命令など、さまざまなレベル・内容のものがあります。業務命令の法的根拠はどこにありますか。業務命令の範囲や限界を画することはできますか。

A.

 業務命令(指揮命令)の法的根拠は、労働協約の定めや就業規則の合理的規定を含む労働契約に求めることができます。ただし、業務命令を基礎づける契約上の根拠があり、命令が契約の範囲内であったとしても、無制的にできるわけではありません。命令によって労働者に著しい不利益を与える場合や、命令の目的が違法・不当なものである場合には、そのような業務命令は権利濫用にあたり、違法・無効とされることがあります。


◆業務命令の法的根拠

 労働契約における基本的な権利義務は、労働者サイドでは労働義務、使用者サイドでは、賃金支払義務。つまり労働者は、労働契約上使用者の指揮命令を受けることを前提として、労務を提供する義務を負っています。ですから、業務命令の拘束力の有無を基礎づけるのは、あらかじめ合意しているという労働契約そのものに求めることができるのです。
 最高裁は業務命令について、「労働者は、使用に対して一定の範囲での労働力の自由な処分を許諾して労働契約を締結するものであるから、その一定の範囲内での労働力の処分に関する使用者の指示・命令としての業務命令に従う義務がある」とし、「就業規則が労働者に対し、一定の事項ににつき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものである限りにおいて当該具体的労働契約の内容をなし、使用者はそれに基づき業務命令を発し得る」(昭61・3・13電電公社帯広局事件)と述べています。


◆業務命令の範囲と制約

 使用者は、労働契約上の合意に基づいて、かつその範囲内でのみ業務命令を発することができます。ただし、業務命令の範囲をどのように限定するかは容易ではありません。実際に、労使が業務命令の範囲について特段の合意をすることはほとんどないからです。
 しかし、制約はあります。強行法規に違反するような場合はもちろん、公序良俗(民法90条)に違反する場合、権利の濫用(民法1条3項、労契法3条5項)にあたる場合、労働者は命令応諾義務は負わず、当該命令は違法・無効なものとされます。
 たとえば、業務命令として危険な業務に従事することを命じた場合。
 判例は、危険海域への就航命令など労働者の生命や身体に予測困難な危険をもたらす命令は無効であり、労働者を拘束しないとしています(最判昭43・12・24 千代田丸事件)。
 本来の業務とは異なるいわば雑用を業務命令として命令する場合はどうか。
 本来の業務から外して火山灰除去作業を命じた事案で、判例は、「降灰除去作業は、鹿児島営業所の職場環境を整備して、労務の円滑化、効率化を図るために必要な作業であり、また、その作業内容、作業方法等からしても、社会通念上相当な程度を超える過酷な業務に当たるものとはいえず」「不利益を課するという違法、不当な目的でされたものであるとは認められない」として業務命令を有効としています(最判平5・6・11 国鉄鹿児島自動車営業所事件)。
 一方で、就業規則の書き写しを教育訓練として行わせる業務命令を、従業員の人格権を侵害する違法なものと判断したケースもあります(最判平8・2・23 JR東日本(本荘保線区)事件)。

 
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