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労働実務Q&Aこれで解決!

私生活上の非行

Q.

 従業員が就労時間外に事業場外で職務とは関係なく行う行為は、純然たる私生活上の行為であり、会社の支配や干渉を及ぼすことはできません。ところで、当社の就業規則には、「会社の名誉・信用を著しく毀損する行為」については、懲戒解雇することができる旨の規定があります。従業員が私生活上の非行によって刑事事件になった場合、この条項により懲戒処分にすることはできますか。飲酒運転により重大事故を起こした場合は、どうなりますか。

A.

 会社は、従業員の私生活の行為全般にわたって職場規律や秩序を強要することはできません。犯罪を行えば、国家と国民という関係において刑事罰を受けることになります。しかし、企業も社会的存在であり、企業の社会的評価を低下させたり毀損させた場合、懲戒解雇処分に処することは可能です。判例は、就業規則に定める包括的条項に限定解釈を加えたり、諸般の事情を総合考慮する等の法技術により、懲戒権の行使を厳格に制限しようとしています。


◆私生活上の非行と懲戒処分

 就業規則に規定された懲戒処分は、企業が事業活動を円滑に遂行するために必要なかぎりで、企業秩序を維持する権限を使用者に認めたもの。従業員の私生活全般にわたって支配する権限ではありません。しかし、従業員の私生活上の行為ではあっても、事業活動の遂行に直接関連を有するものや、企業の社会的評価を低下させたり毀損したことが認められる場合には、懲戒処分の対象とすることができます。
 判例は、「営利を目的とする会社がその名誉、信用その他相当の社会的評価を維持することは、会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから、会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については、それが職務行為と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうる」としています(最判昭49.3.15日本鋼管事件)。
 そのうえで、「不名誉な行為をして会社の体面を著しく汚したとき」という懲戒解雇事由の該当性について、「必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から総合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない」という判断基準を示しています。
 この事案は、企業外の政治活動に参加し、逮捕・起訴され、罰金刑を受けた労働者の懲戒解雇の効力が争われたケースですが、会社の体面を著しく汚したとするには不十分であるとして、解雇は無効としました。


◆飲酒運転による事故と懲戒処分

 飲酒運転による自動車事故については、重大事故が社会的に注目を集めた背景もあり、厳罰化の傾向にあります。平成13年の刑法改正により「危険運転致死傷罪」(208条の2)が、平成19年の同法改正により「自動車運転過失致死傷罪」(211条2項)が創設されました。
 飲酒運転による重大事故が発生した場合の対応も、前記最高裁判決を参考に慎重に検討することとなります。
 企業施設外かつ就業時間外の飲酒運転による事故は、私的生活の範囲内ですから、原則は、懲戒の対象外。ただ、会社の社会的名誉・信用が害される場合のみ例外的に懲戒の対象とすることができます。先の判断基準に照らして利益衡量を行います。そうすると、例えば、バス・タクシーの旅客運送事業を営む会社で運送業務に従事する者やテレビ局などの報道機関の従業員による飲酒運転事故は、世間からの厳しい批判が予測でき、社会的評価の毀損度は「大」です。懲戒解雇を含めた厳しい処分を肯定する方向で評価されることになるでしょう。

 
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