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労働実務Q&Aこれで解決!

懲戒処分の意義と種類

Q.

 多くの企業は、就業規則で、服務規律およびこれに違反した場合の懲戒処分を定めています。懲戒処分は、使用者が労働契約上行える手段としての普通解雇、損害賠償請求、配転や賃金の査定といった人事権行使による不利益措置とは異なる特別の制度。このような私的な制裁措置を使用者が適法に行う権限の法的根拠はどこにあるのでしょうか。懲戒処分の手段についてもいくつかの種類があり、その典型的なものの意味をご教示下さい。

A.

 労働基準法は「制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項」を就業規則に記載することを義務づけています(89条9号)。労働契約法規でも、「使用者が労働者を懲戒することができる場合」について、判例が形成してきた懲戒権濫用法理を採用しています(15条)。労働関係法規は、企業の懲戒処分の存在を容認していると考えられます。ただし、その積極的根拠や理論づけについては、見解の相違があるようです。


◆懲戒権の法的根拠

 懲戒処分とは、従業員の企業秩序違反行為に対して課される制裁罰といわれています。企業組織の規律維持のために不可欠の制度として多用されてきました。使用者がもっている懲戒処分を行う権限を懲戒権と呼びます。
 このような私的な制裁措置としての懲戒権の法的根拠については、従来から議論がされてきました。経営権の一環として認められる使用者の固有の権限であるとする固有権説と労働契約上の合意に根拠を求める契約説との対立です。
 法律解釈論としては、第1に、就業規則に根拠規定がない場合でも懲戒処分をなしうるかどうか。第2に、就業規則上の懲戒事由や手段は限定列挙か例示的列挙か、が争われてきました。
 固有権説は、就業規則に定めがなくても懲戒処分は可能であるとし、就業規則の定めは例示にすぎないとします。これに対し、契約説は、労働契約上の合意が必要であり、就業規則上の根拠規定を要し、就業規則の定めは限定列挙であると主張します。
 もっとも判例は、労働者が企業秩序遵守義務を負っていることを前提として、その義務違反には当然に懲戒処分を課することができるという立場(最判昭58.9.8)。固有権説のようでいながら就業規則への明記は求めています。判例は学説の議論に立ち入っていません(結果の具体的妥当性を求める裁判所は、しばしばこのような態度をとります)。


◆懲戒処分の種類

 ① 戒告・譴責(けんせき)
 どちらも従業員の将来を戒める処分。戒告は口頭、譴責は文書で注意され、譴責は始末書の提出を求められることが多い。
 ② 減給 
 賃金を減額する処分。ただし、労基法は、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない」という制限を定めているので(91条)、注意が必要です。 
 ③ 出勤停止
 労働契約を存続させつつ、従業員の就労を一定期間禁止する処分。出勤停止期間中の賃金は支給されないのが通常です。
 ④ 降職・降格
 役職や職位を引き下げるのが降職、職能資格や職務グレードのランクを引き下げるのが降格。人事評価を通じ、人事権の行使として行われることもありますが、懲戒処分としての降職・降格もあり得るのです。
 ⑤ 懲戒解雇
 懲戒処分としての解雇であり、懲戒処分のなかでは最も重いもの。普通解雇と異なるところは、1つは解雇予告や予告手当の支払いを要せず即時に行えること。もう1つが、退職金の全額または一部を支給しないで済むという2点。ただし、解雇予告除外認定制度について、誤解もあるので注意を要するところ。

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