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労働実務Q&Aこれで解決!

秘密保持義務

Q.

 会社には、顧客情報をはじめとして、技術情報、財務情報、人事情報、個人情報など、重要な機密情報があります。これらの情報は、在職中あるいは退職した従業員を通じて社外に流出するリスクが想定されます。そこで多くの企業では、就業規則に在職中および退職後の守秘義務を定め、懲戒事由に「秘密の漏洩」を規定。会社と従業員とで秘密保持の誓約書を締結することもあります。退職した後も、これらの定めの効力が全面的に及ぶのでしょうか。

A.

 就業規則に労働者の秘密保持義務が規定されたり、秘密保持の特約を企業と交わした場合、労働者は在職中はもちろん、退職後も秘密保持義務を負います。明文化する意義は十分あります。トラブルや訴訟になったとき、文書が生きてくるのです。ただし、企業の犯罪行為や反社会的行為は秘密の対象となりませんし、公序良俗に反するものは無効です。労働者の表現の自由、職業選択の自由、営業の自由を制約しますので、様々な事情を斟酌し、合理的な範囲に限定されることもあります。 


◆在職中の秘密保持義務

 秘密保持義務の対象となる「秘密」とはなんでしょうか。経営者が秘密にしておきたいと思っても、そのすべてが対象となるわけではありません。少なくとも、①秘密として取り扱われ、②法的保護に値する知識や情報であり、③公然と知られていないこと、に集約されると考えます。
 民間労働者に対し、秘密保持義務を課している法令は、労働法にもありません。
 しかし、在職中の労働者は、信義則に基づき、使用者の正当な利益を不当に侵害しない付随義務である誠実義務を負担し、その中の1つである秘密保持義務を負うと裁判例で解されています(東京高判昭55・2・18)。つまり、就業規則の定めや特約の存否にかかわらず、労働者の秘密保持義務が発生するのです。
 ただし、多くの企業では、就業規則に秘密保持義務規定を置いており、その場合はその規定が労働契約の権利義務を規律します。
 労働者が秘密保持義務に違反したときは、就業規則に従い、懲戒処分や解雇、債務不履行または不法行為にもとづく損害賠償請求や差止請求(履行請求)が可能です。


◆退職後の秘密保持義務

 労働契約終了後も、退職者が在職中と同様に信義則上の秘密保持義務を負うのかどうかについては、見解の対立があります。
 実務上は、退職後の秘密保持に関する誓約書や就業規則の定めにより、企業秘密の漏洩の防止が図られてきました。
 もっとも、労働契約は終了していますので、退職者に懲戒処分を課すことは不可能。損害賠償請求や差止請求しかできません。
 退職時の誓約書は、訴訟になったとき威力を発揮します。不法行為に基づくよりも契約違反を理由にするほうが損害賠償請求の立証責任で有利になるからです。


◆不正競争防止法による営業秘密の保護

 不正競争防止法は、労働者の在職中のみならず退職後においても、営業秘密を保護するための法的救済措置を設けています。
 営業秘密は、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業所上の情報であって、公然と知られていないもの」(2条6項)と定義。つまり、秘密管理性、有用性、非公知性の3要件を満たす秘密情報に限定しているのです。
 たとえば、製造ノウハウ、設計図、実験データ、研究レポート、図面などの技術上の情報や、顧客名簿、販売マニュアル、仕入れ先リスト、財務データなどの営業上の情報などがこれに該当します。
 これらの営業秘密を図利または加害目的で使用ないし開示することを禁止(2条1項7号)。これに違反する行為は、差止請求(3条1項)、損害賠償請求(4条)などの民事上の救済のみならず、刑事罰の対象とされています(21条1項)。

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