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労働実務Q&Aこれで解決!

身元保証

Q.

 当社の就業規則では、従業員の採用時に、「誓約書」と「身元保証書」の提出を義務づけています。提出義務を怠ると、採用内定の取り消し、または本採用拒否事由に該当。身元保証書の書式例を見ると、身元保証人は、従業員となる者が誓約した事項を確実に遵守させることと同時に、本人の一切の行為について責任を負うという趣旨のことが書いてあり、責任の範囲も広いように感じます。このような身元保証について、法的な問題はありませんか。

A.

 今日、労働契約に付随して、誓約書とともに身元保証書を求める例は、相当幅広く行われているようです。従来の身元保証は、従業員が不正行為を犯した場合に損害を補填させるためのものという意味あいが強いものでした。しかし、実際には、「健康に働ける状態にあり、企業秩序を維持して誠実に労務提供できる」ことの保証に主眼を置いています。このような身元保証は容認されてますが、法律上の制限もありますので注意が必要です。


◆身元保証契約とは

 会社の売掛金などを集金した金品の使いこみや、不正な経理操作による横領事件などの事例は跡を絶ちませんし、その金額も多額のものになっています。
 身元保証契約とは、通常、労働契約に付随して締結され、従業員の行為により企業が損害を受けたときに、その損害を補填することを目的とした人的担保の一種です。企業が従業員のために負うかもしれない損害の賠償を、他人が補償するもので、契約の当事者は、使用者と身元保証人ということにもなります。
 もともとは従業員本人に責任を自覚させるところに主なねらいがありますが、使用者にとっては、もしものことがあったときに、資産のある第三者の保証は心強いものです。
 身元保証契約には、厳密にいうと、狭義と広義の2種のものがあります。
 狭義では、従業員の債務不履行や、不法行為を犯して企業に損害を与えた場合に、身元保証人が損害賠償責任を負うものです。
 これに対し広義では、従業員に故意や過失がなくても、従業員の一身(たとえば精神疾患等の病気によって業務に従事しえない場合)から生ずる一切の損害を担保するというものです。
 実情としては、広義の意味で締結される例が多く、狭義のものと区別するために、「身元引受」と呼ばれることもあります。この広義の身元保証は、主たる債務が存在しない場合でも第三者が債務を保証しますので、一般の保証契約の範疇を超えた「損害担保契約」といわれるものです。
 公序良俗(民法90条)に反するとまではいえませんし、「契約の自由」の原則の範囲内で、このような契約も容認されています。


◆身元保証法による制限

 このように身元保証人の責任の及ぶ範囲が広く重くなることが多いため、「身元保証ニ関スル法律」(昭和8年制定の古い法律ですが)により、身元保証人の責任を軽減するための措置が講じられています。
 まず、身元保証契約の存続期間について。期間の定めがない場合は3年で終了し、期間の定めをした場合も最長5年になります(同法1条、2条)。
 また、その従業員が業務上不適任または不誠実であって身元保証人の責任が生じるおそれのある場合や、業務や勤務地が変更となり責任が重くなるような場合には、使用者は事前に身元保証人に通知することを要し(同法3条)、その際、身元保証人は将来に向かって契約を解除することができます(同法4条)。
 さらに、保証責任の範囲は、従業員の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人をするにいたった理由や注意の程度、従業員の業務または身上の変化等、一切の事情を斟酌することになっています(同法5条)。

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