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労働実務Q&Aこれで解決!

採用選考時の精神疾患歴の調査

Q.

 今日、うつ病を中心とする精神疾患についての労務管理上の問題が多発しており、企業でも関心が持たれているところです。当社においても、精神疾患を理由として長期の欠勤者や休職中の者が数人います。そこで、採用選考時の応募者の健康状態を把握し、できるだけストレス耐性の高い労働者を見極め、採用することでメンタルヘルス問題に対処する方針です。精神疾患に関する既往歴や治療中であるか否かを調査することに問題がありますか。

A.

 使用者が有する「採用の自由」の中には、労働者「選択の自由」から派生する「調査の自由」が含まれます。調査にあたっては、応募者の人格権やプライバシー保護の観点から、調査項目や調査方法についての一定の制約を免れることはできません。精神疾患に関する既往歴や治療中であるか否かの調査は、応募者の職業上の能力や技能、従業員としての適格性の判断に影響を及ぼす事項。調査することに必要性と合理性があり、違法とはいえないと考えます。


◆精神疾患歴の調査とプライバシー保護

 使用者がもつ「採用の自由」。最高裁は、採用の自由について、「企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するに当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができる」(三菱樹脂事件 最判昭48・12・12)と述べています。
 採用面接時に精神疾患に関する既往歴の有無や治療中か否かを調査することが、判決でいう「法律その他による特別の制限」に含まれるか否かがここで問われている法律解釈上の問題点です。
 採用の自由の中には、調査の自由が含まれます。応募者の採否を判断するにあたり、本人から一定事項について申告を求めるなどの判断材料が必要となるからです。調査の目的は、応募者の職業上の能力・技能や従業員としての適格性を判断することにあります。
 職業安定法は、「その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集」することができる、と定めています(5条の4第1項)。同条に関する「指針」においても、①人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地、②思想及び信条、③労働組合への加入状況等については、明示的に収集規制の対象としているものの、精神疾患歴は含まれていません(平成11・11・17労働省告示141号。改正平成24・9・10厚労告506号)。
 メンタルヘルス疾患の症状は多岐にわたりますが、症状によっては業務遂行が困難になったり、職場秩序に影響を及ぼします。精神疾患に関する既往歴や治療中であるか否かの調査は、労働能力や適格性等の判断に影響する事項ですから、必要性と合理性があります。したがって、調査を違法とすることはできません。さらには、採用の自由が憲法上保障されていることに鑑みると、精神疾患歴を採否の判断要素の一つとしたり、治療中であることを理由に採用を拒否することも、違法とはいえないでしょう。


◆労働能力との関連性の弱い疾病の調査

 これに対し、一定の疾病に関する情報については、特別に慎重な取扱いが求められます。下級審の裁判例ですが、応募者本人の同意を得ずHIV抗体検査を行った事案(東京地判平15・5・28)と、同じく本人の同意なく、B型肝炎ウィルス感染検査を行った事案(東京地判平15・6・20)のそれぞれについて、プライバシー侵害の違法行為とされています。労働能力との関連性の弱い疾病であり、調査態様も妥当とはいえないケースでした。

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